〜第4章〜 黒の男


[33]2007年6月18日 午後11時7分


「君は、正しいものを助け、悪しきものを滅する、ことを今まで教えられてきたよね?」

清奈は構えを解かない。

「何が……言いたい……」
清奈はもう、その瞳は憎悪で染まりきっていた。


「ボクはこの封印を解き、時を操る力を得た。だから……正しい者を生かし、悪しきものを殺す力が得られたんだ。具体的に言うとね……正しきものの時をゆっくりにし、悪しきものの時を早くするんだ」

イクジスは両手を広げる。

「そうすれば……ほら! ボクが選んだ正しいものは生き続け、悪しきものは一瞬で消せる。そしてボクは永遠の命を手にし、ボクが世界を創成するんだ!」


「たわけ!」

「……父さん!」

清奈とイクジスの間に、先程数メートル吹っ飛ばされた清奈の父親が間に入る。

「そんなことをしたら……この世界の時間が大きく歪む……時間が崩壊するんだぞ! 分からんのか、貴様ぁ!!」


「そんなへまはしないよ、君と違い、ボクは器用だからね、色々と」

「笑わせる……! 貴様のやろうとしていることは、ただの破壊者と同じだ。時間まで壊させはしない! タイムトラベラーの名にかけてなぁ!」

「……いい心掛けですね」
「お父さん……」

清奈が父親の後ろで声をかける。
剣を抜いた。

《いざ、参る》

清奈の父親のタイムトーキーらしい声が響き渡る。

その声が
言った言葉が……

《タイムトーキーからも、少し言わせてもらおう。地に堕ちたな……




【パルス】》


な……?

《堕ちてなどいません》

あの、いつもの
声が聞こえた。
毎日聞いている声を忘れるはずがない。
イクジスも、タイムトラベラーで
そのタイムトーキーってのが……?

《イクジスは正気だと私は考えます。時を操る能力を得ることは則ち、ネブラの完全な根絶を指す。お互い悪い話ではないと思われますが》

パ……パルス!
やっぱり間違いない!

じゃ……ちょっとまて……!!
パルスは清奈の過去を全部知っているということか!?
いや、それよりも
ああ、なんてことだ。

あの、優しくて、ちょっと節介焼きで、恥ずかしがり屋のパルスが……?


「断るな。貴様だけはこの剣で……! その腐った性根……砕いてやろう!」

斬りかかる。
時が揺れる。

イクジスから懐から取り出したのは、もう分かる。

ライボルトだった。

数発前方に向けて発射された銃弾は、僕が使っているものより遥かに破壊力がある。

弾道は鋭利。
その一点に大きな力が
全てを破壊し、時間すら形を崩す大きな一撃……!


火花があがり、剣と弾丸がぶつかりあう。
肉眼で捕えられるか否かの、激しい攻めぎあい。

間に一陣の風が流れた。

そして、その戦いは更に激しさを増していく――


「エザ・レクティス!」


剣が青い閃光を放つ。
剣筋が流れ、空に色を塗るような美しい色彩。
音速の域に達する鉄の欠片を、頑丈な刃身で飛ばす。すぐさま剣が、敵との距離を詰めようと前進する。

体の傷があれだけ生々しいにも関わらず、戦う気力はまだ失っていない。
この力こそ、タイムトラベラーであるという誇り。まさしく、その男は、他の何者よりも剣士だった。

清奈の美しさは母親譲りで、清奈の気高さは父親譲りなのだろう。

猛突する。
一瞬でイクジスが剣のリーチ内に入る。
力強く振り下ろされた一閃は、次の瞬間でイクジスが消え、再び背後の少し離れた所に現れる。

煙を扇いだ程度しか、手応えが感じられない。

《力技では無駄ですよ。貴方程度の物理攻撃なら私がそのまま吸収しますからね。ふふふ……》
再び耳にするパルスの声。それと同時に、微笑するイクジスの声と、余裕に溢れた笑顔。

「そろそろ、あなたも消えてもらいましょうかね。アトラクションはもうおしまいです」

イクジスがライボルトの銃口を清奈に向けた。

「取引です。この子を助けてほしければ、ボクに屈しなさい」

「なに……!!」

「……イクジス」

清奈がイクジスを睨みつけて言う。

「何だい? 清奈」

「私は人質に取られるほど、弱くない!」

清奈が、
左手の剣で姿勢を屈め、イクジスの腹辺りを横に断ちきらんと大きく踏み込む!

すぐさま握られた剣で斬りかかろうと――

《リフレ・フォール!》


すぐさまイクジスと清奈の間に見えない壁が現れ、清奈の剣がもう少しの所で、何か固いものに当たったかのように止まる。

「っ!?」

剣を引こうとした時には既に遅い。イクジスがライボルトを持たない左手に一瞬で長く細い剣が現れ


グシュッという生々しい音。

「っあぁ……!!」

清奈の右肩からポタポタと血が流れる。
辛うじて致命傷は免れたが、清奈は不覚にもカウンターを取られてしまった。

さらに

強い振動が来たかと思うと、清奈が飛ばされ壁に激突する!

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