side story


[30]時を渡るセレナーデ -24-



「……」

声を失っていた。
シャリアを含め、誰かこの重い沈黙を破ってくれないか期待していたが、口を開くものはいない。
シャリアの後に連れてこられて入った、丁度6人用の小さな会議スペースに戦慄が走った。
シャリアがこの台詞を発してから、皆の口は閉ざしたままだ。



「この うみしお は……動力は、第八世代型高出力炉、と呼ばれるものなの。その動力炉だけど、数日前に起きた事故で損傷を受けたものなのよ」









「事故というのは、あれのことか」

如月はすぐに思い出した。父親に無理矢理呼び出された、あの爆発事故の会議の内容である。あれは記憶がただしければ、新興勢力によるもの、少なくとも闇の軍団によるものでは無いとのことだった。

新興勢力……それはネブラなのだろうか。それとも全く関係の無いものだろうか。

「そう……。だから、動力炉の燃料も満足に供給できず消費も早い。下手に動力炉に衝撃や負担がかかると、最悪大爆発を起こすことも考えられる」
「シャリアさん。それはすなわち……」

清奈が問う。

「この潜水艇は、古墳島に着くはずが無いと?」







「ええ、そうね」

苦虫を噛み潰したような、しかし冷静にシャリアは答えた。

ここで再び沈黙が支配する。

「でも大丈夫。私も含め、クルー全員が一丸となって君たちを古墳島まで案内する」

歳はまだ若いシャリアだがその言葉には力があった。希望が見えるような響きがそこにはある。
それは容易にできる芸当ではないだろう。




「でも……どうやって」

ハレンが小さな声で言った。

「もう少し奥まで来てくれるかな」

シャリアは うみしお の最後部へと5人を案内する。


歩いている間、シャリアが続けて話す。

「通る海域は常に大荒れで波風共に強いところだけど、それを逆手にとれば機関を作動させなくても海流に流れて進むことができるから、その流れをフルに活用して出来る限り古墳島まで近づく。そして残りは……。

暗証番号を入力し、扉が左右に開く。

「やはりな。これが最も安全だろう」

そこにあったのは、左右の壁に沿って2台ずつ、そして前方の壁に沿って1台横倒しに置かれている何かの乗り物。
それはイルカのような形をしていた。

「Deep-Sea-Dolphin……通称DSDに乗って向かうわ。一台につき二人が乗り込んで、計五台。人数分は確保されている。操作も簡単だから、初めてでも心配は無いわよ」
「この潜水艇が止まったら、これに乗り込むわけですね」
「そうよ。君たちはこれに乗って私たちに着いていくだけでいいわ」

しかし、ハレンや悠はまだ不安を抱いていることは察しられた。

「大丈夫よ。操作は本当に簡単だし、どんな衝撃にも耐えられる頑丈なボディなんだから」

そう言って、少し緊張した面持ちの、この一行で最も背の低いハレンの腰辺りに手を置く。

「如月君なんか、こんな小さな時から乗ってたのよ?」

笑顔混じりでシャリアが言う。

「……何も笑顔混じりで言う必要は無いだろう」
「へえ。如月にもそんな小さな時があったんだ」
「茶化すな」

清奈の少し含んだ台詞に、如月が目を反らす。
そんな珍しい如月の姿を見て、他全員にも笑顔が溢れる。おかげでその場が少し和んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「出力4500hp 太平洋岸大陸斜面に到達」
「速度16.5ノット、分速100m間隔で深度1500mまで深水してください」
「了解」

シャリアから伝えられた、安全が保てる最大スピードは18ノット。これほどの深海ならば暴風の影響も少ない。

クルー達の計画は次のようなものである。

この後、当面は現状維持をとり警戒体制に入る。エンジンストップカウント10分前に、浮上を開始する。
深度200mで上昇停止。ここで、日本海流に乗ってエンジンの消費を極力抑えて古墳島にギリギリまで接近する。

だがそれは、道中に何も起こらなければの話に過ぎない。
古墳島に到着するまでに何らかの障害があるかもしれない。いや、科学省にネブラが差し向けられたのならば、戦闘が起こる確率の方が高いだろう。

この計画事態が賭け以上の効果を果たさない。
最も避けなければならないのは、戦闘中のエンジン停止だ。


「現在……悪性生命反応は無し。一応は」

咲子が言う。一応は、というのは、ネブラはレーダーにかからないためだ。そのおかげで省に2度も侵入されたのだ。
すぐ側に奴らはいるかもしれない。

管制室は常ならざる空気であった。
クルー全員が息を殺す。
艦長は未だ動かない。


既に太陽の光は差しこまない。

うみしおのライトが、未知の世界に光線が突っ切る。

その時、うみしお背後で

何かが音も無く接近してきていた……。



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