〜第3章〜 清奈


[29]2006年8月1日 夜7時23分


そうと分かれば話は早い。グルームの持つあの双極のブーメラン。
あれを破壊すれば奴らの計画は失敗に終わる。

私は真っ先にグルームに向かって飛ぶ。

「む……やはりデータを狙ってくるか。だが……」

フェルミがグルームの頭上より上に持ち上がり、後は振り下ろすだけで両断できる。

「雷の戦姫と戦うことは分かっていた。そうであるなら、こちらが何の対策も練っていないはずがないだろう?」


《セイナ、まずい! 奴は……》

言われて私は体を捻り、グルームの左隣に着地、すぐさま距離をとろうとするが……。

既に遅すぎたらしい。


グルームの懐から現れたのは
奇妙な形状の短剣だ。
それを短剣と呼ぶのかどうかも疑わしい。
刃の部分が派手に大きく曲がり、S字のようになっている。
そしてその柄の部分に
子供の落書きのような紋章がある。
ギリシア文字を乱雑に組み合わせたような、そういう紋章。

それを

私に向かって投げつける。
私は距離を離そうとグルームの側から後ろに大きくジャンプしている。その為か短剣は私の所まで届いていない。

着地し、再びグルームの元に飛ぼうとした……


その時だった。

急に


何が
起こったか。
私は飛び上がろうとしたが足に力が入らないことに気づく。

さらに

ほんの数秒前までなんともなかった筈のフェルミが

急激に重量を増す。

その2つの要因から私は前のめりに倒れてしまった……。


前を見ると
例の短剣が
私の影に突き刺さっている。

動きを封じられた。
あの短剣は……。


「どうかな? 旅人殺し、ナンバー13『アリブロブリア』の効き目は?」

《旅人……殺しだと?》

またも知らない言葉が出る。

旅人殺し

恐らくはネブラが生み出した対タイムトラベラー用の必殺武器……!

「ご存じ無いかな? 旅人殺しは、シヅキ様が2人の憎きタイムトラベラーによって封される前に、製錬なさった武器だ。そしてこのアリブロブリアは……」

グルームがニヤリと笑う。

「まさしく貴様の為だけに作られた代物だ。影か本体に刺されば効果が宿る。その効果は……ククク……」

想像がつく。
私以外には効果がなく、私だけに効果がある。
恐らくは……
強烈な雷封じがかけられた短剣。
あれは他のタイムトラベラーには只の不良品であっても、私にとっては最も嫌な武器。
フェルミは雷の化身。
だからその力の恩恵を受けている私にも当然支障がでる。
だからフェルミが重くなったんじゃない。
私の力が極限まで封じられたのだ。

「貴様はタイムトラベラーの中でも1、2を争う強さだ。だからこそこの武器は必要だった。そして私の読み通り、貴様は来た。そして私の読み通り、【1人で来た】」

…………!

そうか。
奴は私がここに誰も引き連れて来ないことも計算に入れていた。
そう、その通りだ。
でなければ私だけにしか通用しない旅人殺しなど持ってこない。

「そうとも。貴様はそういう人間だ。仲間の力を欲しない、全て1人で片付けようとする狼のような性格だ。戦いに至っては、人との関わり、触れ合いを拒絶する。そういう人間はこちらとしては好都合なものだ……」

黙ってグルームの声を聞くことしかできない。

「なまじ実力があるから貴様は人を惹き付けないのだよ。その狼の牙も、奪ってしまえば子犬のように可愛いものよ……。そして………今」

グルームが消え去っていく。

「ここの気温は摂氏256℃だ。貴様の力を極限した今、後は時間がこの戦いに決着をつけるだろう。貴様の最期を見届けるものなど、誰もいないのだ」

高笑いが響き渡る。

「ケッ! 結局殺すんじゃねえかグルームの野郎……。まあいい! 俺様をバカにした報いに焼け死ぬがいいわ!! ギャハハハハ!!」

そして…
もう一人のネブラも…
逃げて…
消え…去った。


「……フェル……ミ……」

辛うじて動く口を動かすがフェルミの声も聞こえない。


甘かった。
私は甘すぎた。
全て……グルームの想定通りに事が運んだ。
そう……私は1人が好きだ。
1人で戦いたかった。
どうしても。
何故?
それは……。

悠が……。

悠は……戦えないから。
戦ってはならないから。
悠が……役に立たないから?

違う。

本当は……戦って欲しかったのかもしれない。
自分のことなのに、気づかなかった。
悠も……一緒に来て欲しかった。
それを妨げたのは
私のくだらないプライド。
そして

悠が……戦いで傷つくことが、

他の誰よりも痛たまれなかったから。

悠が怪我をするぐらいなら私が身代わりになる。
そこまで私にとって重要な存在になっている。

全てはそういうこと。
私は……1人で戦える程。体も心も強くない。
それを今知った。
自分が弱いことを知らない人。

ごめん……

悠……。

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