本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@
[29]chapter:8-3
「てめぇら少しでも不審な動きをしてみろ!その瞬間ぶっ放すからなぁ!」
大柄な方の男がそう叫びながら銃を天井へと向けて発砲した。
乗客はどよめくもの、悲鳴をあげるものと皆騒ぎ出した。
「うるせぇ!」と、男はもう一発銃を鳴らす。
周りはしんとした。
「おいお前、外の状況は大丈夫か?」
男は長身の方の男に向かってそう言った。
「ああ、計画通り一人、外に行かせてる。中の状況はもう知らせれているはずだ」
長身の男は落ち着きを払った声でそう言った。
――計画通り……?
ヴァンは少年と一緒に縄に縛られ、身動きが取れなくされながらも、男達の「計画通り」という言葉に耳をとめた。
「(計画通りってことは、前々から計画されていたってことかな...?
でもこの状況じゃ何もできないなぁ...いやこの縄がなくても何もできないな...)」
「なんかドキドキするネ」
少年はさっきからこの調子だ。不謹慎…というのだろうか。
とりあえずこの少年は今の状況が分かっていないようにしか見えない。
「ところでなんで僕たち縛られてル?」
やはり分かってなかったらしい。
「え...僕たちだけ変に乗ってきたし、へんな行動起こさないようにじゃない...?」
ヴァンはボソッとそう言った。
「なるほどー」
本当に分かったのだろうか。ヴァンは疑った。
「(とにかく僕にできることはないなぁ...)」
「ネぇネぇ」
「ん?」
「あいつら悪者?」
「まぁ...」
「じゃ、ぶっとばすヨ」
「は?何を...」
ヴァンが言葉を理解する前に少年は宙を舞っていた。
「なんだ!?こいグッ!?」
大柄の男が宙を舞うシュールな光景がヴァンの目に飛び込む。
少年が男を蹴り上げたのだ。
「な..うっそ...」
唖然とするヴァン。
「こいつ...!」
長身の男は銃を少年に向けた。
「ほい」
「あ!」
少年はヴァンから盗んであった布で包まれた剣を男に投げつけた。
「なんだこんなも......ん!?」
男は剣をはらおうと手を伸ばしたが何故かそのまま剣に潰されてしまった。
少年は余裕の表情で車内に着地する。
「うわー...」
ヴァンも乗車客も口が開いたままになっている。
一人の少年が大の大人をのしてしまった。
「す..ご......あ..!」
少年の背後で最初に倒した男が銃を向けていた。
「こっの..くそガキぃ!!」
「危ない!」
ゴッ!
大きな鈍い音と共に銃を構えた男は床に倒れた。
後ろには身長の高い大男が拳を握りしめて立っている。
大男はそのまま少年のもとに大股で歩みより、なんと少年頭を殴った。
さっきと同じ、鈍い音が車内に響いた。
「お姉さん、どうだい、これ?」
「すまない、急いでいるんだ」
ラルは微妙な胸騒ぎがしていた。
――やはり一緒にいるべきだったか……
ラルは今更になって後悔した。
街は何やら騒いでいるように見えた。しかしそれは街の活気をあらわしているのか、それとも何か事件があったのだろうか。
「おい!西駅のほうで何かあったらしいぞ!!」
奥で、誰かがそう叫ぶ声が聞こえた。
どうやら後者らしい。
――しかも西駅とは……
ラルはさらに後悔した。
「痛いネ!さてはお前もグルなのカ!?」
「無茶をしやがって!乗客に被害が出てたらどうするんだ!!」
とりあえず二人は知り合いではない雰囲気だ。
ちなみに僕も知らない。
「終わりよければ全てよし!東のことわざを知らないのカ!?」
「知るか!」
ゴン!という響きと共に少年はまた殴られた。
乗客はみな唖然としている。
もちろん僕もだ。
ヴァンはなんとか背中を壁に当てて立ち上がり、少年のもとへ歩みよった。
「ねぇ、君。この人は君が銃で撃たれそうなったところを助けてくれたんだよ?」
「つつ痛...!そうなのカ?それは感謝...つ痛ぅッ...でも痛いヨ...」
「...ちょっと強くやりすぎたか...」
「全然ちょっとじゃないネ!!」
「とりあえずこれで一安心ですね」
「まだだ」
「え?」
「他の車両にもまだ仲間がいるかもしれない。外には一人仲間がいるらしいしな」
おじさんは堂々した態度でそう言った。
謎の少年に謎の男。そして謎の事件。
謎ばかりの今日の出来事。
――なんでこんな目に...
「完璧にのびてるな」
少年とおじさんにのされた二人の男は、目を半開きにしてピクリとも動かなかった。
正直危ないんじゃないか?
と、ヴァンは二人の男に同情した。
「さて..これからどうするか...」
おじさんは顎に手を当て、これからのことを考えはじめた。
「ところで君...」
ヴァンは少年に話しかけた。
「ン?」
「ん?じゃないよ。僕の大事なもの勝手に盗んで」
「すまないネ。この国きたばかりで金がない」
「君どこの国の人?この国じゃないよね?」
「んー、言えないネ」
「は?」
ヴァンは長身の男の上の布に包まれた剣を手にとりながら聞き返した。
「名前くらいなら」
「じゃ名前は?」
「我叫天飛竜(ウォ ジアオ ティエン フェイロン)!」
「え?え?」
「ア、ごめん、自国語でしゃべっちゃったヨ」
「その言葉...」
突然おじさんが話を割ってきた。
「その言葉...『カン』のだな?」
「な、なんで知ってル!?」
ずっとニカニカしてた少年が突然動揺を見せた。
「カン...?」
聞き慣れない国の名前にヴァンはオウム返しをした。
「東にある大きな国だ。私の知り合いに『カン』の者がいたからな、基本的なカン語なら理解できるさ、フェイロン=ティエン」
「君、フェイロンっていうんだ」
「フン!」
少年は何故かふてくされている。
「お前は名前なんていう?」
慣れていない感じでフェイロンは英語を喋った。
「ぼ、僕は..ヴァン...ヴァン・シル...」
シルと言いかけて、ヴァンはハっとした。
――僕の、名前……
兄さんがつけた…名前……
ずっと使ってきた名前。
『ヴァン=シルウァヌス』
自分の名前じゃないか。何をためってる?
――僕は……
「僕は...ヴァン...」
「変わった名前ネ」
「君ほどじゃないよ」
「ナニ!?」
「こら、いがみ合ってる場合じゃないだろ」
「おじさんは名前なんていうネ?」
「わ、私か...?」
それはヴァンも知りたかった。
「私は...エドワードだ」
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