〜第3章〜 清奈


[27]2006年8月1日 夜7時15分


辺りをよく見回し、気配を探ってみるが全く見当たる気配は無い。

ネブラの出どころはここのはず、なぜ何も感じとれない?

辺りは静寂に包まれ、私は息を殺して更に奥へと入る。
その時だった。


前方から2つ、何かが私に向かってくる。
部屋は薄暗く、それが何なのかは分からないがブーメランのような形が見える。それを弾き返した。
火花が飛び散る。あのブーメランは刃で出来ている。高速で回転していることもあり、当たれば大怪我をするだろう。

「誰だ!」

そのブーメランが飛んだと同時に1匹のネブラの気配を察しとった。

「……はん。威勢はいいな。流石は、蓬莱珠玉の雷……使いってところか?」

一人の男の声。かなりのドラ声だ。
……相手はヒューマノイド型じゃない。でも気配から察するにヒューマノイドに匹敵する強さを誇っている。

「……なんだ、ヒューマノイドじゃないのね。私が怖くて出てこれないの?」

少し挑発して相手の様子を伺おう。

「うっせえんだよ! てめえこそ前に来たらどうだ? もっとも下手に動くと俺様の鍵爪でパックリ裂いてやるがな。ヒャハハハハ!」
「そう」

私は
前方に足を歩める。
「このやろ! 調子のってんじゃねぇ!」

その声と共に、あいつがとびかかる。
胸元をえぐる攻撃。受けるのには造作もない。
私の剣に何か固いものが当たる。そして、至近距離まであいつが近づいた為、相手の顔と姿は見えた。

ジャガー型だ。

ヒューマノイドより戦闘力が高いが、そのぶん知恵はない、本能のままに爪を振るう短気なネブラだ。
普段ならこいつほど戦いやすいネブラは無いが、フェルミの防御壁という制限時間がある今、こいつの相手は骨が折れる。短期決戦で挑むには相手が悪い。

「なんてぇ嫌なやろうだ……。この俺様をバカにするだと? てめえの命がどうなっても知らねえからな!!」
「サーベル、もう少し静かにしろ」

別の男の声だ。

「てめえは引っ込んでろ!! グルーム!!」
「それにしてもなぜこんなに真っ暗闇にするんだサーベル。姿を隠すことはできても、こちら側も満足に戦えないではないか」

すると
指を鳴らす音。
たちまち動力室の電灯がつき、辺りの様子がはっきり分かった。
ジャガーが後ろに飛ぶ。
観覧車の動力炉と思われる機械の上に、2匹のネブラだ。
1匹は、先程見た通りのジャガー型。もう1匹はライオン型だった。
ジャガー型のネブラは鋭い爪が光り、こちらをかなり苛だった表情で見ている。ジャガーの割にはきちんと服を着ていて、顔も人間の赴きがある。亜人間か?先程の会話から察するに、名はサーベルらしい。

そしてライオン型のネブラも同じく亜人間で、先程飛んできたブーメランを2本持っている。立派な黄金の鬣(たてがみ)がある。名は……グルームか。

どうやら動力室の屋根に1匹、中に1匹ネブラがいたようだ。

《2対1か……。かなり厳しい状況だ。ここは一旦引いた方が賢明かもしれん。ユウを呼んだほうが……》
「悠がここに来ることはありえない」
《だが……》
「だが、じゃないのフェルミ。あいつの力は必要ない。私1人で十分よ」

私は高く飛んで2匹のネブラの差を詰める。
本来ならこちらの有利な状況に追い込んでから戦うが、時間に余裕が無い。

「ヒャーハッハッハッ!! そうこなくっちゃなぁ! そんじゃ行くぜーー!」

サーベルが飛んで私に向かってくる。

私の剣とあいつの鉄の爪が空中でかちあって、大きな金属音が響いた。空中で火花が飛び散り、私とサーベルは同時に着地する。

さらに私とサーベルは同時に振り返って更に攻撃を続ける。
上に、下に
左右から前後から振り下ろされる鍵爪。
激しい動きで曲線のように曲がる。野生の力とは、まさにこういうことか。ひとつひとつの斬撃が生々しく私の目に写る。

左後ろに回された爪。
直感で下に避け、右手を軸にしてサーベルに足払いを入れる。

それをサーベルは空中に飛び、前方に回転して上から爪を振り下ろす。すぐに体制を整え、その爪を剣で受け止める。

うまくその爪を弾き、サーベルは一瞬無防備になる。
今だ!

私は大きく踏み込んでサーベルの懐に入り込み、その首を落とそうと剣をおもいっきり振り下ろす!

しかし、サーベルも間一髪であるものの、私の剣を掴む。

「ぉらぁ!!」

その剣ごと私を放り投げる。
壁に衝突しかけるが、上手く受け身をとって壁に着地する。
そのまま足で壁をおもいっきり蹴って、サーベルに向かう。
このままあいつの体を突いて……!

と、したところで
サーベルがニヤニヤ笑う。
上からブーメランが落ちてくる!
瞬時に私は足で止まり、前方からと後方からやってくるブーメランを、右に避けてやりすごした。

そこでお互いに動きが止まる。

「……ふん。どうやら口ばかりじゃ無いみたいね。正直驚いちゃった」

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