〜第4章〜 黒の男


[25]朝8時18分


結局その後は、頭が興奮したせいで全く寝つけなかった。
おかげで寝不足特有の倦怠感が僕を襲う。
早く寝て体を休めるはずが、あまり疲れが取れていない。鬱だ……。

しかし、時間はそんなことはお構い無し、60億人いるなかの僕1人の為だけに時間が止まってくれるはずもなく、秒針が等間隔で刻む。

一瞬学校を休むという案が浮かんだが、修行の事を考えやむなく却下した。それにだな……。
清奈に、19日に聞けばいいかと思っていたイクジスのことだが、もう今日聞いたほうがいいかもしれない。あんな夢を見たあとだからな……。



絵夢を必死で叩き起こし、絵夢が歯ブラシに洗顔クリームと間違えずに歯みがき粉をつけたか確認し、僕は制服の中に入れっぱなしだったパルスを出す。そして今日見た内容を伝えた。



《杯ですか……それに、何者かがセイナを襲おうとした、というわけですね。あとはそれが誰だったか……私はイクジスだと思いますけれど》

「やっぱり、あの人が……?」

しかし、それをするにしても、理由は何だ?
イクジスは悪い人間じゃない。それは断言できる。あの青年を見ても、偽善とかそういう言葉は浮かびあがらない。
本当に彼は、心の底から清奈を愛している。
でも、あの扉の向こうにいる人間がイクジスだとしたら……。やはりそれは全て嘘ということになるのだろうか。



登校途中、絵夢はまだ寝たりないのか電車の中で僕の肩にもたれかかり、立ったまま眠りについている。寝たいのはこっちもなんだがな……。
窓の外を見る。
そろそろ水害の心配をするべきじゃないか?もう永久に晴れが来ないのではないかと思ってきた。夏を間近に控えているが、太陽の光が差しこまないせいで、冷え込みが激しい。まだ夏服に着替えるには肌寒い。

自然と溜め息が出た。
体は疲れる、外も雨、
今のタイミングでネブラが来たら本気でヤバいな。


「……っ!」

窓の外から視界を外す。
またもや、あの少女だ。
血まみれで微笑んでいるその子。ネブラなのか?
僕をずっと付け回しているみたいだ。
気分が悪くなる。

「またか……!!」

近いうちに、あの子が僕の目の前に現れる。
タイムトラベラーは、ネブラが現れるのをじっと待つことしか出来ない。ネブラの発生を未然に防ぐことができないのだ。
まるで、僕を徹底的に追い詰めようと企んでいる、
或いは……そう
僕たちを観察して、全ての手の内を読んでいるかのように、何をしても全て無駄な抵抗だということを知らしめているかのように。



学校に到着する。
相変わらず実は魔法使いの足立さんが何か怪しい儀式をしている。

「ね、ねえ足立さん」

足立さんの表の顔を覗きこむ。
ブツブツと何か唱えていたのを止め、こちらを向く。

「何か新しく分かったことはあった?」

「いえ……特には」

「そ、そうか」

会話終了

やだな、こういう空気は。僕は会話が止まることに耐えられる人ではないらしいな。話が無い気まずい雰囲気が苦手っていうか。

時間割りをふっと見る。
そうだ、そういえば
次は体育だっけ。

「ん?」

足立さんの机の回りには小さな鞄が一つだけ。
ああ、やっちまったな足立さん。
聞いてみるか。

「足立さん、体操服忘れた?」

「……今日は体育は無いはずですが」

時間割をもう一度見てみる。そして今日は何曜日なのか、考えてみる。

結論

間違いなくあるわけだが、

「今日は一時間目は芸術で二時間目は英語で三時間目が数学で……」

「足立さん?」


「はい」

「それって昨日の時間割……」

ちょっとまて
もしかして……!!

「あ、あ、あわわわ……!」

天然ドジッ娘足立さん裏、降臨。

「あ……あれれえ? ちゃんと時間割合わせたのに……!」

足立さんがおどおどする。少しホッとする。
何故かって? まさか、SF映画ばりに同じ日が繰り返されたんじゃないかって思ったからだよ。
時を狂わすネブラならやらかしそうだからな。

どうしようか……体操服って借りれたっけ?


「相沢、今度は足立さん狙い?」

聞き覚えのある声。

「瀬戸さん、今日は早いんだな」

「まあね、今日は朝から学級委員の集まりがあるもんだから、は〜めんどい」

そう言いながら肩から提げる赤のエナメルバッグを机に乗せる。

「瀬戸さん、体操服借りれる場所ってあるか? 足立さんが忘れたらしくってさ」

「司書室に確か残ってるはずよ。親父も来てるはずだから行ってみなさい」

「サンキュ、瀬戸さん」

「ほんとにごめんなさい……」

足立さんは申し訳なさそうに声を出した。


というわけで今、足立さんと共に司書室へと向かっている。

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