〜第3章〜 清奈


[24]2006年8月1日 夜6時30分


そこにつくまでの間、体が乾ききって地に伏せている人の数は山のようだ。
男も 女も
子供も 老人も
全てが等しく、皆同じことになっている。
不意に誰かが私の足を掴んだ。
下を見ると、
40代位のメガネの男がいる。

「……ず……み……ず……。」

私はその力無き手を振りほどく。今は1人に関わっている時間は無い。
男の苦悶の声を確かに耳に残し、私は走り去った。



十字路を左に曲がり、50m進む。右手を見るとそこにあったのは、マスコットキャラクターを型どった像があった。異様に大きく、その像も赤熱しているかのように紅く染まっている。

その像の土台に扉があった。扉の形は視えずとも、明らかにタイムトラベラーの為の不可視空間が広がっている。

「不可視空間、解放」

たちまち像の土台の部分にヒビが入り、重い音をたてて横に扉が開く。
すぐに私は中に入り込んだ。



「フェルミ。宜しく頼んだわよ」
《了解した》

無数の本、無限に広がっている空間にフェルミが飛びあがり、上へと向かう。

10秒程度ですぐに降りてきた。

本のページを捲る。
番号はすぐに見つかった。ナンバーは…155027#4だ。
《セイナ、すぐに向かうぞ》
「分かってるわよ」

手早く番号を入力し、電話を発信した。その瞬間私の意識が遥か遠くへと流れていくのを感じる。







到着した。
携帯電話を見て問題なく時を渡った事を確認する。

「バトルモード、移行開始」

息をするかしないかの早さで私は戦闘服に着替え終わり、外へ向かい階段を駆けあがる。

外に出る。
辺りには誰もいないが、お祭りで賑わう声が遠くから聞こえてきた。

今は2006年8月1日 午後6時30分。

お祭りが始まった。だがもうすぐここは戦場となる。西の空から夕日が沈む。
夜になる。
戦う……時間だ。


《相手はタイムトレースをしている。襲撃のタイミングはすぐに分かるだろう》
フェルミが言った。
タイムトレースとは、すなわち時間を投影することだ。
つまりは2007年5月19日と2006年8月1日が全く同じ時間になったのだ。

だからこの時間で起こった出来事は全て向こうの時間でも起こる。

今ここで大爆発が起これば、2007年でも同じ場所で爆発が起こる。
ここで水害が起これば向こうでも水害が起こる。

つまり、
あの気温が異常に上がる現象が2007年で起こったのなら、当然ここでも同じ現象が起こるはずなのだ。

その現象が起こったときこそ、ネブラが現れる時刻だ。

私はその時刻まで、身を潜めることにした。
私はすぐ側のベンチに腰掛ける。今ドタバタしたって何の利益は無い。来たときにうってでればいいのだから。



そのまま時が流れる。
その間に私は考えていた。なぜ悠と【あの男】が似ていると思ってしまったのか。

悠は……あいつとは絶対に違う。
悠は、馬鹿だけど愚かではない。
あいつみたいな奴ではない。
それを何度も確認する。
次にあいつの消息を考えてみた。
滅ぼされたはずだ。
二人のタイムトラベラーによって滅びた。
だから悠とあいつが似てようか似てまいが関係無い。
くだらない。こんなことでくよくよ悩むことなんてない。
私は思考を止める。
さっさと止め――


「本当にそうなの?」



私は不意に背中から声をかけられた。
馬鹿な。後ろに気配は感じられ……!
すぐに振り返りフェルミの柄に手をかけた所で気づく。

グレームドゥーブルの時にいた、あの少女だ。

「まさか……今回はお前の仕業?」

少女は首を傾げる。
「わたしはたまたま通りかかっただけだよ? 何かあったの?」

……やはりこの子と話すのはまずい。
なにか……私の全てが見え透いてしまっている気がする。
何せ相手はネブラだ。
下手に口を開けばそれだけで私が不利になりかねない。

「何でもない。あっちに行きなさい」

「は〜い」

その少女は素直にその場を去っていく。なぜわざわざ私の前に現れるのだろう?

「そうだ、お姉ちゃんに一つだけ言っておくね」

その少女がこちらを振り返った。そして少女が口を開いて言った。


「この前ね、わたしの知らないネブラがお姉ちゃんを倒そうと何か話し合いをしてたよ。だからお姉ちゃんは早くお家に帰った方がいいと思うな」

無邪気な笑いを浮かべてそう言いのこし、その少女は去っていく。

紫色のオーバーオールの背を向けて

「バイバイ」

一瞬で姿を消したのだった。


「フェルミ。あの子……いったい何者かしら?」

ふむ、と思案しているフェルミ。そして帰ってきた言葉が

《ネブラでありながら人畜無害のように見える。あの子はネブラの中でも特異な存在なのかもしれん》

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