〜第3章〜 清奈


[23]2007年5月19日 午後3時33分


《ユウ》
「何だパルス」
《セイナが……気になるのですか?》
「……うん」

今ごろは清奈は戦っている。僕の知らないところで、僕の想像を越えるような激しい戦いを繰り広げているのだろう。

「僕……何も守れてなんかないよな」

清奈もハレンも
世界じゅう全ての人達の未来も
タイムトーキーの中でも最高クラスとされるパルスにも……僕自身は何も出来ていない。

清奈がいなくなっただけでこんなに不安になるものなのか。

そしてこの不安は

僕を守ってくれている清奈という存在がいない……ということからくるものであり

同時に清奈の無事を心配していることからくるものでもある。


……自分はなんて無力なんだろうか。


《そんなに自分のことを卑下しないでください》

不意にパルスの声が聞こえた。

《自分が無力だと分かっていることは、決して弱いことではないのです。それは、寧ろ強い人間だと私は思います》

「……どうしてさ」



《私が思う弱い人は、自分が弱いということを知らない人です。でもユウは違います。自分をじっくりと見つめている。だから自分は弱いと分かっている。でもそれは、恥じることでは無いと思います》

「そんなものなのかなあ?」
《セイナやその他の名をあげたタイムトラベラー達も、最初は今の悠と同じように自分と向き合って努力してきたのです。ですから、ユウは必ずセイナに並ぶような素晴らしいタイムトラベラーになると信じています。焦ることは……ないのですよ》
「……ありがとうパルス。おかげでちょっとだけ元気が出た。でも……僕はたとえ自分が弱いと分かっていても清奈が危険にさらされたら行くよ」
《私はユウの契約者です。だから私はユウがいかなる決定をしても咎めないつもりです。望むならばセイナの状況を申しあげても構いませんが?》
「ありがとう。頼むよ」



――――――――――――


世界が紅くなった。
砂の国の人間でも音をあげるような暑さだ。
どうやら相手もようやくその気になったらしい。

「フェルミ、この揺らぎはこの公園の外にも?」

《いや。どうやらこれも不可視空間に類するものらしい。公園の敷地外には異変が見受けられない。》

「範囲が公園内なら、ネブラも恐らくこの公園内にいるわけね。あとは時間の特定……何か分かる手掛りは無いかしら。」

気温が急激に上昇した。
考えられるのは真夏日か?
「見つかったわ。手掛りが」
《どこだ?》
「どうやら奴らは不可視空間を丸ごと真夏日に時間転移させたらしい。今の時期には無くて、真夏日にあるものがそこにある。」

私はそこを指差した。
夏祭りの屋台が数軒並んでいる。

「恐らくこれが見えているのは私達タイムトラベラーだけ。他の人間はただ気温が高くなって水がどこにも無いということしか分からないでしょう」

そして私の周りで一人、また一人と倒れていく。このままだと皆が根絶やしにされるのは時間の問題だ。

《しかしセイナ、夏祭りと行っても何年前の夏祭りだ?》

「それがね。この公園は偶然にも完成したのは2006年の春なの。」
《なぜ分かる?》

私は制服のポケットに入れっぱなしだったリボンを取り出す。悠からゲームで貰った青いリボンだ。
そのリボンに金色の刺繍でこう書かれてあったのだ。

「開園1周年記念と書かれているわ。だからこの公園に夏が訪れたのは過去一度しかない。フェルミ、夏祭りの日時は分かる?」
《今調べよう。》



私はリボンを再びポケットに戻そうとしたが、その手を止めた。

そのリボンをじっと見つめる。
なんでまた、いちいちあいつの顔が浮かぶんだろう。
今はそんなことを考えている場合じゃない。

私は雑念を払おうとしたが、うまくいかないことに気づく。
なんとなくリボンを腕に巻き付けることにした。袖を捲り、左腕に強く結ぶ。
そうすることで、私の心はようやく落ち着いた。
辺りはいくら紅くても、リボンは紅く染まることはなかった。蒼は蒼いままだった。

空を見上げる。
暗雲が立ち込め今が昼か夜かも分からない。
空は黒く、地は紅い。黒と紅のコントラストは自発的に人を恐れさせる。
私は左手を空に伸ばした。リボンの青空が僅かに希望をもたらしているのか。
恐れるものはなにもない。私は私の使命を果たすだけ。果たせなければ死ぬだけ。私は誇り高きタイムトラベラー。

誰の助けも借りないで戦い抜いて見せる。






《セイナ、日時が判明した。2006年8月1日、午後6時30分に祭りが始まり10時に終了している》
「決まりね」

後は番号を手に入れるだけ。

《前方200m先で左に曲がり、50m進んだら右手に扉がある》

すぐさま私はその場を走り出した。


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