〜第5章〜


[22]時刻不明 無刻空間…


2007年4月、1人のタイムトラベラーが現れた。
その者は、こともあろうに、全てのネブラを総轄するもの、シヅキのタイムトーキーを手にした。
ネブラにしてみれば、この事実はふざけすぎている。シヅキが完全復活したところで、武器が相手の手に渡っていたら話にならない。だから彼は生まれた。
世界のどこかで新たに誕生したルネスは、シヅキ直々の命により、あらゆるネブラと行動を共にしている。

相沢悠の抹殺
及び輪廻からの永久追放
及びパルスの回収。


ソディアックでも優位の座につく彼にとっては、成し遂げるのは簡単だと誰もが思った。
しかし彼らが気づいた時には、あれほど無力だった男が、猿並みには、マシになっている。そして、
あの 長峰清奈と肩を並べる有力なタイムトラベラーとなるのも、そう遠くは無い。

ルネス……
対相沢悠討伐兵器。
道具のような彼が、時渡り達を襲うのだ。
足には
旅人殺し ナンバー8
『クラシックミラー』
その男が……不適に笑う声が聞こえてきた。
目にある者を愉しみながら世界を内破していくような響きだ……。


「んっしょ、んっしょと」

掛け声を挙げながら長い黒カーペットの階段を登っているのは、あのオーバーオールである。

「もうちょっとだ……お父さん! 渡したい物ってなあに?」

ちょうど彼女ぐらいの年頃なら、なにかプレゼントしてくれるのは嬉しくて仕方が無いだろう。

女の子が階段を登りきると、目の前の巨大な扉が開いた。
非常に豪勢、かつ優雅なその扉は、その者の絶大な力を思わせる。

まだ扉が完全に開ききらないうちにオーバーオールは走り出して中へ入った。

「お父さん! なにかくれるの?」
「……うん、渡したいものがあるんだ。でもその前に……」

赤い糸が彼の周囲に無数に張り巡らされている。
その意図の隙間から見えるのは、紛れもなくイクジス……本人の顔であった。
あの時と同じ、笑顔で。
しかしその笑顔も、真面目な顔に戻る。

「ダメじゃないか。勝手に輪廻へと出歩いては」
「え〜? だってずっとお城の中じゃつまんないんだもん! わたしだって外に出て遊びたいよ!」
「うん、その気持ちは分かるよ。でもね、あっちは危険がいっぱいだから、あんまり勝手に出歩いてほしくないんだ。時渡りに殺されたらどうするんだい?」
「時渡り? あのお兄ちゃんとお姉ちゃんのこと? あの人達は悪い人じゃないよ? だって、悪いことするネブラをやっつけてるもん」
「たしかに……そうなんだけどね。でもあの人達は、ボクもやっつけようとしているんだ」
「え?」

目を少し見開いて驚きの表情を浮かべる。

「なんで? お父さんって、悪いことしたの?」
「今はしてないけど、昔はちょっとね……。 お父さんは悪いことをしちゃったから、こんな風に封じ込まれちゃったんだよ」
「じゃ……じゃあ、あの人達って、悪者なの? お父さんは、何もしてないのに?」
「そうだね……タイムトラベラーは、ボクたちを滅ぼそうとする敵だよ」
「そ……そうだったんだ……」

今まで彼女の中で「お友だち」程度に考えていた、あの2人が敵だと知らされ、まだ驚きを隠せないみたいだ。

「だから、約束。あの人たちに、ボクのこととか、皆のこととか、このお城の場所とか、喋っちゃダメだよ。分かった?」
「は〜い」
「いいこだね。それじゃあ、これをあげるよ」









「わあ、お父さんありがとう! お父さんだいすき!」
「ふふ……そんなに嬉しかったかい? でも一つだけ約束、他の人に渡しちゃだめ」
「うん! 分かった!」

少女は、何かを受けとったようだ。
非常に嬉しそう。
彼女の好きな、光り輝くものだ。
小さな右手にギュッと握られている、紅色のダイヤモンド。
非常に嬉しそう。
彼女の好きな、綺麗なものだ。
白い指の間から覗く紅色のダイアモンド。
非常に嬉しそう。
彼女は知らない、それが何なのか。
薔薇色の星をイメージした、未知のダイアモンド。
毒々しい響きが、目に移るよう。

彼女の去る間際、シヅキはずっと優しい笑顔を浮かべ続けていたという。





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