本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@


[21]chapter:6-2


あの夜から二日が経った。
家の前ではいつもよりたくさん人達がひしめいていた。僕は黒い喪服を身にまといながら窓の外を見た。
すぐそこにビルの家がある。その前で四人の男が十字架が彫られた黒い棺を抱え運ぼうとしていた。
 
──あの中に、ビルがいる。
 
 
二日前の晩、夜が明け朝になった時に僕はビルのことをラルさんに伝えた。
 
見つけた場所に行くと、僕が最初に見つけた状態のままで、やはりビルは息をひきとっていた。
 
ビルの死はラルさんによってご親族に伝えられた。
僕はラルさんに自分も一緒について行ったほうがいいかと聞いたが、ラルは自分一人で大丈夫だと言った。
 
正直僕は安心してしまった。
子供の死をその親に伝えるなんて、僕にはできない。ラルさんもそれを察してくれたのだと僕は感じた。
 
 
 
ヴァンは身だしなみを整え帽子を被ろうとした。
ふと鏡に目をやる。
「..これ..どうしよ...」
 
外へと足を運ぶと、外ではラルが先に待っていた。
 
「お..おはよう..ございます...」
「..おはよう」
ラルは短く静かに返事をすると、そのままビルの家へと歩き出した。
ヴァンは慌てて後ろについていった。
 
ラルは相変わらず無愛想というか、ヴァンは慣れていなかった。ラルには独特の雰囲気があるというか、とにかく近寄り難い空気を醸し出していた。
とても二日前、一晩中自分のことを抱きしめてくれていたなんてヴァンは信じられなかった。
 
「ら...ラルひゃん...あ...」
ヴァンは思い切ってラルに声をかけてみたが声が裏返ってしまった。
「ん?どうした?」
ラルは何も気にしてないかのように返事を返した。それがまたヴァンを赤面させた。
 
「あ、あの...き..傷...体の..傷は大丈夫なんですか...?」
「ああ、まだ完治しているわけではないがほとんど治っているよ」
「そ..そうですか...」
 
二日前の時点ではかなりの傷のように思えたがもう殆ど全快したのだろうか。
ヴァンは不思議に思ったが口にはしなかった。
 
「君は大丈夫なのか?」
「あ..僕は...まぁまぁです...」
 
嘘である。ヴァンの体はそこら中が悲鳴をあげていた。ヴァンは自分が嘘をついた理由が分からなかった。
 
「ところでその帽子はなんだ?」
ラルはヴァンの不似合いな帽子を指差しながら聞いた。
「あ、やっぱり..これ...まずいですよね...」
「..まぁ..葬儀だからな...」
 
ヴァンはもじもじしながら帽子をとろうかとらまいか迷ってる素振りをした。
「どうした?」
「そ..それが...」
 
ヴァンが観念し、帽子をとるとラルは目を丸くした。
なんと、もともと珍しかったヴァンの白髪に、紅い波のような模様がついていた。
「な、どうしたんだその髪...?」
さすがのラルも驚きを隠せない。
「わ、分かんないですぅ...昨日の夜気付いたらこの模様が浮き出ていて...」
「二日前の奴の返り血か...?」
「い..いえ、それは一応昨日の朝のうちに洗い落としたはずなんですけど...」
 
ラルは顔をうつむき少し黙った。
「ら..ラルさん...」
「...すまない..私の知る限りではこんな症例は見たことがない...
これは憶測だが、奴が契約した悪魔の腕を君が切り裂いた際に浴びた血が関係しているのかもしれない...」
「ど..どうしましょう...」
「とりあえずそのままでいるしかないだろう...」
「え..ええぇぇぇ...」
 
ヴァンはうなだれるしかなかった。
 
 
 
 
 
 
沈黙の中、ビルの埋葬式は締めくくられた。
ビルの家から、朝見た四人の男達が棺を運び出す。
ヴァンとラルは少し離れた場所からそれを見守っていた。それはヴァンの頭に模様が染まっているまま葬儀に出るわけにはいかなかったからであった。
 
家からブラックスーツを身にまとった人達がぞろぞろと出てきて棺の後へとついて行く。
ヴァン達はその最後尾から少し距離をおいて続いた。
 
この列は埋葬場の丘へと向かう。棺が運ばれる間、聖歌隊による聖歌が歌われた。
辺りには参向者の服についた香炉の匂いがまわり鼻をついていた。
ヴァンは不謹慎に感じながらも髪の模様を気にしながら歩いた。
 
 
丘にはちょうど棺が入るほどの大きさの穴が掘られている。
ヴァンとラルはやはり近くまではいかず離れた場所で見守った。
 
穴の中にビルの棺が入れられる。
「..あ...」
 
棺の横で泣き崩れる女性の姿が見えた。
間違いない。ビルのお母さんだ。横では夫、つまりビルのお父さんがヴァレリー夫人の肩を抱いているのが見える。
 
何故だかヴァンは目が熱くなった。涙が一筋目から零れる。
 
友達が死んだのだから当たり前だろう。でもヴァンはビルのことがお世辞にも好きではなく、むしろ友達とも思ってはいなかった。
なのにヴァンの目から涙がこぼれていた。
悲しいのか、それとも──。
 
「思いを通すには...いつだって力がいる...」
突然ラルが話し出した。
「後悔してもすでに遅く...過去へ戻ることはできない...
だから人は後悔しないように、力をつけ、知識を蓄えなければいけない...」
 
ラルはヴァンに背を向けて立った。
「軍に入れば君が今感じている以上の苦痛が待っている」
ヴァンは黙っている。ラルは背を向けたまま続けた。
「そして...軍で力がないことは罪になる..いつだって命懸け...
その覚悟を持たなければいけない...」
 
覚悟...。
ラルが二日前にも同じことを聞いたのをヴァンは思い出した。
 
「どうする...?」
 
「...僕は.........」
 
丘に、風が吹いた。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.