第36章
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苦々しい顔でドンカラスは舌打ちする。後から覗き込んだエンペルトも深刻な表情を見せた。
ロトムの入ったボールが床で揺れる。それでも二匹は決して部屋に飛び込んでロトムを助けにいこうとはしなかった。
正体がポケモンだと気付かれてしまった以上、もう人間達は仮装に怯む事はないだろう。
ポッタイシとワタッコの協力もこれ以上は望めない。
狭い室内にトレーナーが二人もいる中から、ロトムのボールを掠め取ることは不可能に近い。
ボールがロックされ、トレーナー登録をされてしまう前にロトムが抜け出して逃げ延びてくることを祈るしかなかった。
しかし、揺れが三回目に差し掛かった時、無情にもボールはカチリと音を立てて動きを止める。
そしてすぐに人間の一人が駆け寄り、それを拾い上げた。
ドンカラスは諦めたように扉を静かに閉めると、帽子の鍔を下げ小さくため息を吐いた。
・
「へー、ロトムっていうんだ。まさかこんな小さいポケモンが今回の犯人だったなんてねー」
玄関へ向かう途中、ポケモン図鑑を見せてもらいながらナタネは感心半分、呆れ半分に呟いた。
「この子、どうしましょう。事件解決の証拠に必要ですか?」
ロトムの入ったボールを手にヒカリは尋ねた。
「ううん、いいわ。調査に付き合ってくれたお礼として取っといて。捕まえたのはヒカリちゃんだしね。
さあ、早くこんな陰気臭い洋館からは出ましょ!」
「はい!」
扉を開け放ち、二人とそのポケモン達は夕焼けが木々の間から滲むハクタイの森を帰っていく。
その背をドンカラス達は洋館の窓からひっそりと見送った。
ロトム一匹の犠牲だけで洋館が救われるようならそれも止む無いと、ドンカラスが苦渋の決断を出したのだ。
「しょうがねえんだ。諦めておくんなせえ」
後ろでぐすぐすと恨めしく泣くムウマージにドンカラスは言い聞かせる。
「ヒカリちゃんならロトムに対してぞんざいな扱いはしないと思う。だから辛いとは思うけど……ね」
エンペルトもそう諭すが、ムウマージは泣きながら二階の奥へと飛んでいってしまった。
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