第36章
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二匹の後に続いてヒカリとナタネは階段を上っていく。
一段一段を踏み締める度に古い木の板はぎいぎいと嫌な音で軋んだ。
エントランスホールの二階部分はコの字型になっていて、
ヒカリ達が上って来た側と一階への吹き抜けを挟んだ向かい側に部屋と階段が左右対称に一つずつ、
そして中央奥にもう一つ入り口がある。
まずは順当に手近な部屋から探ってみようとしていたその時、
急にポッタイシが何かに驚いたような鳴き声を上げ、歩みを止めた。
「どうしたの?」
ヒカリに尋ねられ、ポッタイシは怯えた様子で吹き抜けを挟んだ向こう側の部屋を指し示す。
ポッタイシの素振りはどこか大げさで芝居掛かったものであったが、その違和感に気付かれることはなかった。
それ以上に異様なものが指し示された先には佇んでいたのだ。
それは人間の老人の姿をしていた。だが生気は感じられず、存在がおぼろげで体が半透明に見えるような気さえした。
きっと洋館内が薄暗いせいでそんな風に見えてしまっているんだろう。
ヒカリは必死に自分にそう言い聞かせ老人に声をかけてみようと試みるが、
喉が凍り付いたように言う事を聞かない。本能があの老人と関わる事を拒んでいるようだった。
やがて老人は彼女達の存在などまったく気付いていないかのように無視して階段を音も無く下りると、
そのまま一階の食堂へと入っていってしまった。
ぞくりとするような冷たい空気と沈黙がヒカリ達を包んだ。
「今のお爺さん……人間ですよね?」
恐る恐るヒカリは言う。
「あ、当たり前でしょ! そうじゃなかったら何だって言うのよ」
強がるナタネだがその顔は少し血の気が引いていた。
「……何とかうまい具合に恐がらせたようだけど、あんなの予定にあったかな?」
主人達に悟られないように声を潜めてポッタイシはワタッコに話し掛ける。
「アドリブかなあ。化けたのはマージさんかロトムさんかわからないけれど、さすがゴーストポケモンさんですねー」
特に疑問に思う様子は無く、朗らかにワタッコは答えた。
「ううーん……」
――ドンカラスの話では、最初に仕掛けてくるのはそこの部屋に入ってからのはずだけど。
ポッタイシは妙に思いながらも、ヒカリ達の誘導を続けるほかなかった。
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