第41章


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 あっしから顔を背け、子ニューラはマフラー野郎に再び纏わりついて懇願する。
「でも、早く帰ってあげないとお父さん達も心配しているんじゃあないかな。話を聞くに、君は今も
誰にも行き先を告げずに隠れて抜け出してきているってことだろう?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、少しだけ遠回りになるだけだ。それに、親父達はオレのことを心配しすぎなんだぞ。
もうちょっと自由に外に行かせてくれたっていーのにさ。だからちょっとは子離れしてもらわねーとな」
 諭そうとするマフラー野郎に、子ニューラは強情を張って言った。
 こいつが里を抜け出たがるのは外への純粋な興味の他に、過保護な――と感じるのは当人だけで、
周りからしてみたらまだまだ妥当な扱いなんだろうが――親達への反発も含まれているように見えた。
こましゃくれたガキにありがちな思い上がりってやつだな。あっしは鼻で笑う。
「ケッ、半人前にも満たねえようなガキンちょが、なーにが子離れだ。ついさっきまで蜘蛛共にビビッて
樹の上でぶるぶる縮こまっていたくせによ」
 冷やかすあっしに、子ニューラはムキになった様子で振り返る。
「う、うっさい、クソカラス。オレだって親父に稽古つけてもらってるし、ホントは強いんだぞ!
 喧嘩しても、年上のヤツにだって負けないもんね。でも、虫は……特にあの蜘蛛は、その……」
 途中までの威勢はどこへやら、蜘蛛の話となると途端に子ニューラはばつが悪そうに言葉を濁した。
 弱みの確信を得、あっしはにやりとほくそ笑む。
「いいのか、ぐずぐず寄り道なんてしてると、またあの蜘蛛共が出てくるかもしれねえぞ。うじゃうじゃーってよぉ」
 身振り手振りも交え、あっしは子ニューラを存分に脅かす。オッサン呼ばわりへの仕返しも込めていた。
子ニューラは「う……」と言葉を詰まらせ、毛並みをぞわりと振るわせる。


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