第41章


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 その間もあっしの嘴からはどんどんどんどんと黒い煙が溢れ、留まる気配が無い。
しかし、肝心の炎はまるで出てくる様子が無く、ただただ煙がもくもくと出続けるだけだ。
「お、おいおい、なんだい、これ……。まさか、煙しか出てこないってんじゃないだろうねえ?
 ……何だか薄気味が悪くなってきたよ。もういいから、止めておくれよ」
 ニャルマーは表情を引き攣らせてあっしから手を離し、不気味なものを見るような目つきで後ずさった。
「こんゲホッ、テメゴホッ! のせ、ゴホゴホ!」――こんなことになったのはテメーのせいだろうが!
 思い切り怒鳴りつけてやりたくても煙と咳に阻まれ、止めようとしても止めることが出来ない。
煙は霧のように周囲に立ちこめて濃度を増していき、昼の森はここだけ夜になってしまったかのように
暗闇に包まれてしまった。
「ちょっと! とうとう何も見えなくなっちまったじゃないのさ!」
 ニャルマーは叫びたてながらきょろきょろと辺りを見回し始める。蜘蛛達も、視界を奪われた様子で
右往左往し出した。
 最初は大げさに驚いてふざけているのかと思っていた。霧の中はあっしの目にはまだぼんやりと辺りの様子が
確認できる程度の暗さにしか見えなかったからだ。だが、奴らが本当に困り果てているのを見て、
あっし以外の奴にはこの霧はほぼ完全な暗闇として映るのであろう事を悟る。
 確かに便利な技ではある。だが、あんなにボコスカ殴られた末に発現したのがこんな煙幕モドキじゃあ
割りに合わない気がしてならない。いや、今はそんな愚痴よりも、この隙に乗じてマフラー野郎を
糸から解放するのが先決だ。
 あっしは蜘蛛共の間を擦り抜け、がんじがらめのマフラー野郎の下に駆けつける。解いてやろうと、
糸に足を引っ掛けたところで妙なことに気付く。あれだけ頑丈に巻かれていた糸が、
まだ掴んだだけで殆ど力を込めていないというのに、簡単に切れて崩れてしまった。――これも、この霧の力か?



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