第41章


[73] 


「う――」
 不意にマフラー野郎が呻き声を上げ、僅かに身を揺らす。ふと、あっしは正気づいて、
助け起こそうとマフラー野郎の肩に羽をかけた。
「おい、大丈夫かよ?」
 声をかけながらあっしはマフラー野郎の体を軽く揺り動かす。ヤツは耳をぴくりと反応させ、
まだ意識がおぼろげな様子でおもむろにあっしの羽を握り返すと、うなされる様に何かを微かに呟いた。
はっきりと聞き取れなかったが、それは誰かの名前だったように思えた。
 ぎょっとして振り払えずにいると、急にマフラー野郎はぱちりと目覚めて、あっしと目が合う。
そして、握った手とあっしの顔を交互に見て、ぞっと顔を青ざめさせた。
「な、なんのつもりだい。俺にそんな趣味は全く無いぞ」
 言いながら、マフラー野郎は素早く起き上がってあっしから後ずさっていった。
「そりゃこっちのセリフだ、バカヤロウ! テメーがいつまでも目を覚まさねえから気を利かせて助け起こして
やろうとしていたら、てめえの方から急に俺様の羽を握ってきたんだろうが。寝ぼけてんじゃねえぞ」
 ひとが折角心配してやったのをなんて誤解をしてやがる。あっしにだってそんな趣味はねえ。
言い返すと、思い出したようにマフラー野郎はぽんと手を打つ。
「ん、ああ、そうか。君達を木に引っ掛けた後、俺も気を失って――。いや、それはすまなかった。
そうだ、他のみんなは?」
「まだ上だ」
 あっしはニャルマーとチビ助のいる木の上を指し示す。ニャルマーも呻いて目を覚ましそうな兆しを見せ、
チビ助はマフラー野郎が無事とわかった途端、『早く下に下ろせ』と言いたげな様子で図太く構えていた。
さっきまでの不安げな慎ましい態度なんてまるで嘘だったかのようだ。
「良かった、どうにかみんな生きてたみたいだね」
 二匹の様子を見上げ、マフラー野郎は安堵の息をついた。

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