第41章
[72]
「……ぶぇっくしょいッ!」
大くしゃみと共にあっしは目を覚まし、鼻を羽先でごしごしと拭った。動きに合わせるように、体がぶらぶらと
宙に揺れる。ひやりとして辺りを見回すと、周りは木々も枝葉も全て天地が逆にひっくり返ったような森の中――
ではなく、何かが足に引っ掛かってあっしの体は蝙蝠みてえに逆さに吊られているようだ。
足元を見てみると、太い枝に見覚えのある細長く伸びたマフラーが絡まっていて、あっしの足はそれに
括り付けられている。その根元すぐ傍らに、チビ助の姿もあった。先っぽに葉のついた小枝を片手に、
太い枝の上からこちらを少し心配そうに見下ろしている。
「しつこく突っついてやがったのはおめえか、チビ助。ま、おかげで頭に血が上りきる前に目が覚めたぜ」
あっしは羽ばたいて枝の上までよじ登り、嘴でマフラーの枷を足から外した。それにしても丈夫なマフラーだ。
どう考えても普通の生地じゃねえ。
「マフラー野郎――おめえの親父と、ニャルマーのやつはどうなった? 無事か?」
あっしが尋ねると、チビ助は少しきょとんとした後、無言で下方を指差した。見やると少し下の枝のところで、
ニャルマーがあっしと同じようにマフラーで体を吊られて気を失っていた。ずっと伸びている長いマフラーの先を
更に目で追っていくと途中でそれは宙で途切れ、地べたにまで視線を下ろすと草の中に黄色い姿を見つけた。
やつは草むらに横這いに倒れ込んだまま、ぴくりとも動いていないように見えた。
チビが不安そうにあっしの羽をぐいと引っ張る。
「へ……へっ、あの野郎がこの程度でくたばるわきゃねえだろ。ちょっと待ってろ、先に様子を見てきてやる」
あっしは自身にも言い聞かせるようにチビに言うと、一足先に地面に降り立ち、恐る恐る近づいて確認する。
どうやら息はあるようだ。気を失っているだけらしい。特に目立った怪我も――前面を見渡し、背中側に至った所で、
あっしは絶句した。一体、どうやったら、何があったら、こんな傷を負うというのか。今までマフラーの裾や
背負ったチビに隠れていてわからなかったが、あいつの背にはまるで稲妻のように縦にジグザグに裂けた大きな
古い傷の跡があった。
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