第41章


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 こいつのやる事なす事全部が無茶苦茶で、あっしが生きてきた中で最も危ない思いをしてきたはずなのに、
不思議と一番生きている実感がした。それもいよいよここで終わりだってのか。
――いや、まだだ、まだこんな所で終わらねえ!
 あっしは諦めて閉じかけていた目と羽をこじ開けて、確と広げる。翼にかつてない程の力が宿り、
空気を大きく巻き込み始めるのを感じた。
 背後から迫る耳障りな羽音と甲高い鳴き声。団員が放った蝙蝠ポケモン――ズバット共だ。
だが、あっしは臆せず、漲る翼を力強く宙に叩きつける。解き放たれた力は一陣の突風となって吹き荒れ、
纏わりつくズバット共を吹き飛ばし、あっしらを大空高く押し上げていった。
 ずしりと全身に圧し掛かってくる重圧。翼がみしみしとへし折れそうなほどに軋んで痛む。
それでもあっしは嘴を噛み締めて堪え、翼を広げ続けて、上昇していく突風へと喰らい付いた。
やがて突風は緩やかにほどけ、穏やかな流れへと変わっていく。あっしは数回羽ばたいてバランスを取り、
水平に流れていく風の一つへと乗った。
「少し荒っぽいが実に見事なフライトだった、やるじゃないか! かつての友たちの勇姿を思い出すようだよ。
手さえ離せれば、拍手の一つでも送りたいんだけどね」
 マフラー野郎が晴れ晴れとして言った。てめえのせいでひとがどれだけ苦労したのか分かっていないような
呑気な口ぶりに、あっしはかちんときて足元を睨む。にこにこと微笑むマフラー野郎の背で、
ニャルマーは放心したように呆然としていた。チビの方は……いつもの調子だ。
「別に離してくれてもいいんだぜ。てめえという奴ぁ、何度も何度も無茶ばっかりさせやがって――」
「まあまあ、そう腐るなって。今は文句を言うより先に自分の力で成し遂げたことを、周りを見てごらんよ!」
「ああん?」
 あっしは声を荒げながらも、奴に促されるまま周りの様子に目を向ける。その瞬間、
吐き出そうとしていた文句は全て喉の奥へと引っ込み、代わりに出たのは感嘆の溜め息だった。
目の前一杯に広がっているのは、まるでミニチュア模型みてえにちっぽけになって見える街、森、川、海、山
――空は、世界ってのは、なんてだだっ広いんだ!



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