第41章


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 あっしを掴んだまま、マフラー野郎はフェンスの無い屋上際に向かって走っていく。
「やめろ、やめろぉ! 無理心中だこんなもん!」
 翼をがむしゃらにばたつかせ、あっしは振り払おうと暴れ続ける。
「大丈夫大丈夫、君と同じくらいの大きさしかないポッポだって、『そらをとぶ』って秘伝の技術があれば、
十歳くらいの人間の子ども一人くらいなら飛んで運ぶことが出来るんだ」
「あっしはそんなもん知らねえよ!」
「出来ないとやらないは違うって言っただろ、ヤミカラス。俺とニャルマーとピチュー、
三匹合わせても十歳の子どもよりはずっと軽いはずだ。やってやれないことは無い!」
 背後からは、とうとう屋上まで追いついて来た団員達と、繰り出されたポケモン達の相当数の怒号と足音が響いてくる。
少しでも立ち止まれば、あっと言う間に囲まれてしまうだろう。
「飛んでいる姿を思い描け。自分の力を信じろ。理想を己の力で掴み取るんだ、ヤミカラス! ユー・キャン・フラァァァイッ!」
「ひ、ひいいいぃぃぃ――」
 屋上際ぎりぎりを踏み切って、マフラー野郎はあっしを掴んだまま宙へと飛び出した――。

 ああ、ろくでもねえ人生だった……。あっしは今までの生き様が走馬燈のように蘇る。
だが、頭の中に巡るのは、殆どがどれもこれも、代わり映えのねえあの薄暗い倉庫でのクソッタレた日々だけだ。
暗雲のように立ち込める記憶の群の中で、たったの一時間にも満たない程度しか一緒に居ないってのに、
このマフラー野郎達とここまで逃げてこられた一生に比べたら一瞬でしかない記憶は、暗闇を裂く雷の如く青白く輝いて見えた。


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