第41章


[62]


 駆け出すマフラー野郎の後を追いながら、あっしは怒鳴る。
こいつらのやることなすことが一から十まで平穏無事に済むなんて、一抹でも期待したあっしが馬鹿だった。
「ま、まあまあ。途中で脱走がバレてしまうのは覚悟の上だったんだし、大方最初の予定通りじゃないか。
このままダクトで百貨店まで上がったら、人混みに紛れて脱出だ」
 これじゃ完全に踏まれただけ損じゃねえか、ちきしょう。ボサボサに掻き乱された頭をあっしは恨みがましく撫で触った。
 何人もの慌ただしい靴音が外から聞こえてくる。あっしらは無我夢中でダクトを上に横にと駆け抜けていった。
そんな中、チビ助は何やら思い出したようにマフラー野郎にごにょごにょと耳打ちする。
「え、お腹が空いたって? 今は忙しいからちょっと待っててくれ、な!」
 少しは反省しているのかと思いきや、マフラー野郎の代弁にあっしとニャルマーは思わずずっこけそうになる。
「だ、誰のせいでこんなことになってると思ってやがんだ、ちきしょう!」
 チビ助は不機嫌そうに頬をむくれさせ、ぷいと顔を背けた。
 どこまでジコチュウなクソガキだ。あっしはぎりぎりと嘴を噛み締める。絶対に無事に逃げ延びて、
その根性叩きなおしてやる。あっしの心にまた一つ誓いが刻まれた。

 走り続ける内、ダクトの奥の方から、大勢の雑多な奴らががやがやと騒いでやがるような音が僅かに聞こえ始め、
徐々に近づいて大きくなってくる。地上の百貨店はもう近い。
「あそこから出られるかもしれない。ちょっと確認してみよう」
 下側から明るい光の差し込んでくる箇所を見つけ、あっしらは忍び寄って格子の隙間からそっと様子を窺った。
外には大小老若男女様々な人間共が買い物袋らしきものを手に行き交っているのが見える。
「よし、ここから外に出る。覚悟はいいね?」
「ああ、もう好きにしやがれ」
 有無を言わさず心構えだけを確認するマフラー野郎に、あっしは溜め息混じりに答えた。
「あんな大勢の人間の前に出て、本当に大丈夫なんだろうね?」
 少し不安げにニャルマーが言う。
「大丈夫、普通の人間は急な異常事態には案外何も出来ないものさ。大勢になればなるほど余計にね。じゃあ、いくよ――」



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.