第43章


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〈ところで、ここはどこなんでしょう? そして、あなたは?〉
 落ち着いて自分の置かれた状況の異常に気づいたのか、きょとんと首を傾げて彼女は現状を尋ねた。
 ようやくまともに話をすることが出来そうだと、俺は深々と安堵の息を吐く。
〈やだ、私ったらまた……すみません、礼儀知らずで。自己紹介はまず自分から、ですよね〉
 だが、それをどうやら礼節を欠いたことで俺が気分を悪くして溜息をついたと解釈したらしく、
――当時の俺は、普段から無意識に仏頂面をしていただろうから、それも勘違いの原因だったろう――
慌てた様子で彼女は謝り、はにかんだ。
〈私の名前はピカ――っと、こっちは同族の方に名乗っても意味無いですね。改めて、私の名前は――〉
 そうして、彼女が名乗った名は――」
 ――言い掛けて、マフラー野郎は口篭る。
「……名前は?」
 催促するようにあっしが尋ねても、マフラー野郎はふるふると首を横に振るった。
「今の俺には、あの子の名前を口に出来るような資格は無い。ただ、彼女の親代わりでもある牧師――
人間だけれど、穏やかで笑顔の優しい人だった。彼に賜ったという、電気と琥珀を意味する言葉に因んで
付けられた彼女の名前はとても素敵なものだった、とだけ言っておく――
 ――名乗り終え、彼女は身の上も少しばかり話しだした。どこかぼうっと、おっとりとしている癖に、
よく物怖じせずにぺらぺら喋り続ける奴だと思いながらも、戦いに縁の無い同族が一体どんな暮らしぶりを
しているのか興味があった俺は、大人しくそれに耳を傾けていた。

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