第39章


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「――もうこんな野蛮なことはしない。剣もいらない。だから許して欲しい」
 日もすっかり沈み、コロボーシ達の奏でる木琴のような音色だけが外から染み渡ってくる穏やかな洋館。
食堂ではロズレイドが本を広げ、ポケモンの言葉に解読しながら子どもに読み聞かせるようにゆっくりと声に出して読み進めている。
「若者は剣を地面に叩きつけて折ってみせた。ポケモンはそれを見ると……」
 その途中、茶菓子の陣が敷かれたテーブルの向かい側、長い耳を枕にだらしなく突っ伏して寝息を立てている姿をちらりと見やる。
ロズレイドは溜息一つして、切りの良い所まで黙読し、葉っぱを一枚栞代わりに挟んでから静かに本を畳んだ。
まったく、この本を代わりに読んで聞かせて欲しいと言い出したのは、一体どこの誰だったか。
『シンオウの神話・伝説』と書かれた表紙と居眠りするミミロップを交互に見て、ロズレイドはもう一度深く息を吐いた。
 洋館で再会してから一度、自分達の帰還とお化け騒ぎが治まったことをドンカラスに報告するため、トバリに足を運んでいた。
ピカチュウを信じて洋館で待つ。そう気丈に振舞っていたミミロップだが、心配の種の地が近くにあるとなれば、足があの不気味な泉と畔の洞窟へ通じる道を何気なく探しに向かってしまうのは、仕方のないことだろう。
報告の終わった帰り道、ロズレイドもミミロップの調査に付き合った。
しかし、やはり泉に繋がるような道は見つかることは無く、トバリの近隣に生息するポケモン達に聞いてみても、全く存在すら知らないか、熱で意識が朦朧としている時に一度見た等という信憑性の薄い情報しか得られなかった。

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