第43章


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 俺は釘付けにされたように、意識を失ったままの彼女の顔をぼうっと見つめていた。
……茶々を入れられる前に言っておくけれど、その時は色恋じゃあなく、同族をこんな間近で
まじまじと見ることが出来るのは初めてで、物珍しかったという単純な興味に依るものだった。
鏡で長々と自分を見つめるような嗜好も暇もなかったし、戦地となった国・地方には野生の同族は
ほぼ全くと言っていい程見られず、居たとしても図鑑の分布にも載らないほど極少数が隠者のように
ひっそりと誰にも目に付かないように慎ましく暮らしているんだろう。
 戦場で兵器として見かけることも極々稀だった。交戦中に落ち着いて観察している暇など無いし、
戦闘が終わった頃には大半が原形など殆ど留めていないかった。元々、俺達は激しい戦いに向くような
種族じゃあない。体格は小さく、脆く、重量級の奴らに踏み潰されただけでほぼ致命傷だ。
一応は電気ポケモンの端くれとして電撃という強力な攻撃手段を持ってはいるが、単なる兵器として扱うならば
もっと気性が荒く攻撃的なエレキブルやライボルト、機械的に従順に命令をこなすジバコイルやマルマインを
採用した方が一、二回りも余計な手間と暇と予算を掛けずとも即戦力として投入できて手っ取り早いだろう。
俺含め同族は僅かな数だけが実験的に投入されただけに留まり、その過半数が碌な成果を残せぬまま
あっという間に戦火の中に消えていった。どこぞの酔狂な少佐殿がどういうわけか俺達を甚く気に入って、
同族とその進化形にあたる種族を重用していたらしいが、会う機会も同じ現場に肩を並べることも無かったな。
 檻越しに彼女の姿を見ていて、なんと、か弱く小さいんだろうと思った。ふわふわとした毛皮と赤い頬は小枝に
引っ掛かっただけで破れてしまいそうで、布越しにも見て分かる丸みを帯びた体の線には、身を守るごつごつとした
甲殻も筋肉も感じられない。これが、同族、傍から見た俺の姿なのか。これが本来の姿なのか。衝撃を受けた。


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