第39章


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「あ、あ……」
 潰れ広がった触手の残骸のほとりで、泥沼のように床で揺らめく真っ黒な表面をアブソルは茫然自失として見つめた。虚ろな目を彷徨うように巡らせて探し求めても、そこに黄色い姿は跡形も無い。
 まただ、またボクを守って、今度は、今度はピカチュウが……!
 一番なくすのが怖かった、最初に出来た最も大切な友達。それが目の前で、自分を庇って消え去ってしまった。弱りきっていた幼い精神を砕くには十二分過ぎる衝撃だった。
 最早言葉にならない悲痛な慟哭が、アブソルの喉を張り裂けんばかりに駆け上る。
ギラティナとパルキアは目を見張って争いを中断し、素早く体を離した。
だが、天と地の揺らぎは収まらない。
天地は泣き震えていた。響き渡る絶望の叫びに、一緒になって泣き叫んでいた。
 ――辛い、苦しい。なんで、誰が、こんな、こんな……。
 ふらりと動いた視界に、自分を見おろす二匹の竜の姿が映る。
 ――そうだ、あいつら。あいつらの戦いに巻き込まれたせいで、大切な、大切な……!
 許さない、許さない、許さない、許さない、許せぬ、許せぬ、許せぬ。
 流れ続ける涙が光の粒子に変わり、激情に震える体を這い進んでいく。やがて光は全身をすっぽりと包み、先の尖った長い四肢をもつ馬に似た形状で固まった。


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