第39章


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 繰り返す衝撃音と揺らぐ天地。荒々しい竜の血の性を剥き出しにぶつかり合う、二つの天変地異。その下で、俺は涙で震える真っ赤な瞳をぶれることなく見返す。
「もうやめて……!ボクが消えればいいんだ。ボクのせいで誰かが危ない目にあうのはもう嫌だよ。ピジョンさんだって、ボクさえいなければ……」
 ピジョン――俺が救えなかったものの一つだ。アブソルを守って翼に傷を負い、飛び立てなかったあいつは、最後に俺をも助け、噴火するグレン島に一羽残った。
目の前にいながら、一度掴んでおきながら、救い上げることが出来なかった。
自分を庇ったせいだと、アブソルの心にも重く圧し掛かっていたことだろう。

「ピジョンの事は、誠に残念であった。俺自身、悔いても悔い切れん。だが、あいつは残る俺達を思い悩ませ苦しませる為に助けたわけではないはずだ!
 よいか、アブソル。確かに、俺もお前よりずっとずっと早く、肉体が朽ち果てる時が来るだろう。しかし……」
 全てを伝えきれない内に、上空から響く絶叫のような咆哮が俺の言葉を掻き消す。
見上げると、斬れ飛ばされた巨大な黒い触手の一本が、俺達の方へと落ちてきていた。
パルキアもすぐに気付き、こちらに向かってこようとする。が、ギラティナに喰らいつかれ、間に合わない。
咄嗟に俺はアブソルに体当たりし、突き飛ばす。

 異様な程、時間がゆっくり流れて感じる。触手は既に頭上すれすれにまで迫ってきている。
もう俺が避けるている間は無い。でも、不思議と恐怖は無い。アブソルだけはどうにか逃がせた、な。
 直後、視界が、全身が、生温い闇にざぶんと沈んだ。

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