第43章


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 ――程なくして引き上げの号令がかかり、俺もトラックの荷台へと乗り上げた。
『グッド・ボーイ』どこか嘲弄めいた笑みを浮かべ、頭に伸ばされかけた兵士の手を振り払い、
俺は捕獲ケージの檻が並ぶ荷台の奥へと一匹向かった。途中、両脇からは先程捕らえられた者達の
畏怖、憎悪、侮蔑、怯えの視線が向けられ、まるで暴君の凱旋の如く、皆決して言葉には出せぬが
拒絶に満ち満ちた気配が俺を取り巻いていた。だが、こんなもの、いつものことだ。
まるで気にも留めないようにして、割り切って、鼻で小さく笑い飛ばして、俺は最奥の小汚く錆び付いた
鉄板に背を持たれかけさせて腰を下ろした。
 このまま疲労に任せて目を閉じれば、悪魔が寝付くにはふさわしいであろう土石流の最中でシーソーを
しているかのような軍用トラックの破滅的な揺り篭に暫し揺られ、それから叩き起こされて家畜小屋が豪邸に
思えるような宿舎へと押し込められ、起床ラッパより喧しい顔面バッテン傷の黒猫が押し売って来る喧嘩を
うんざりとあしらいながら、次の出動を待つ。繰り返しだ。……いや、それも、もうすぐ終わってしまうのか。
 あるいは、寝入った隙を見計らって、檻の中に居る誰か、どいつでもいい、が長い爪や牙や針、
何でもいい、を憎いであろう俺を目掛けて放って、一息に息の根を止めてくれるかもしれない。
このまま用済みとなって、恐らくは人間の手によって廃棄されるよりも、その方が互いに幾らか気が晴れ、
俺も割り切れる。そんな風に思った。
 しかし、生憎、檻の中にはそんな手段と度胸がありそうな奴はいなかった。檻の中に入れられていたのは
進化前や小型のポケモン達ばかりだ。見るからに危険と判断された者は皆、簡素な檻ではなくモンスターボールの中に
封じ込められたんだろう。その証拠に幾つかの中身が入っているらしき青いモンスターボールが檻の上の籠の中に
乱雑に放り込まれていた。


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