第41章


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 ――「ああ、頭がいてえ……。今となったら、絶対にありえねえって断言できやす。あの時の目眩の正体は、
単に直前まで奴がスリープにかけていやがった催眠術の残光がまだ目に宿っていた影響だってな。
ただ、あの時ゃあっしも若かったのさ……いやいや、まてまて、今でも十分に若ぇぞ。少なくともまだまだオッサン呼ばわり
されるような歳じゃねえ! なあ、エンペルト!?」
 グラスを叩きつけるように置き、ドンカラスはエンペルトに声を荒げて迫る。
 また悪い酒癖が始まったよ、エンペルトはドンカラスに聞こえないようにそっと溜め息をつく。
「うんうん、ドンはまだまだ”おじさん”じゃなくて”お兄さん”だよ。大丈夫、分かってるから落ち着け」
「ならいい……今度、あっしをオッサンなんて呼びやがるふてぇ奴を見つけたら、その場で磔刑にしてやる、ったく……」――

 ――ありえねえ、ありえねえ、あっしはぶんぶんと首を振るう。
「おっと――。何やってんのさ。そいつに頭でも強くぶん殴られたのかい?」
「そ、そんなわけねえだろうが。こんな奴のへなちょこパンチなんざ、華麗に全部かわして余裕でぶっ倒してやったってんだ」
「ふうん……言う割には、さっきまで必死な形相と息遣いだった気がするけどねえ」
 にやにやとしてニャルマーは言った。
「う……」
 あっしは気恥ずかしくなり、言葉に詰まる。
「い、いいだろうが、勝ったには違いねえんだからよ。それより、あのマフラー野郎とゲス犬はどうなった!」
 ニャルマーは何も言わず、くいと首で示した。その先には、じたばたと暴れて走り回るヘルガー――頭の上には、
角を掴んでロデオのように乱暴に乗りこなすマフラー野郎の姿があった。


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