第39章


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「準備はよろしいですか?」
 宝玉を取り戻し、溢れんばかりの力を全身から滾らせながらパルキアは問う。
「ああ」
 マントを羽織り直し、俺は身と心を構えた。
不安と気概に胸が鳴る――『グゥー』……――以上に、堂々と高鳴りを告げる異音。
 パルキアも空間を破ろうと振り上げた手を止め、きょとんと目を丸めて、俺を見下ろしてくる。
「ずっと何も食べていない……のでしょうね」
 呆れたように冷静に指摘され、顔が燃え上がりそうに熱く感じる。
「問題ない。構わずに、早くギラティナの下へ向かってくれ」
 顔を背け、腹を捻る。そういえば、いつからまともにものを口にしていないだろうか。だが、こんな時に余計な茶々を入れずとも良かろうに……。自分の体を、ひどく恨めしく感じた。
「恥じずとも。真っ当に生きてらっしゃる証です。どれ、少し拝借――」
 パルキアは片手を空間の断面に突っ込み、がさがさと中を探りだす。
連動するように、森の一部がみしみしと揺れた。
「これを召し上がりませ。味は保障いたしかねますが、恐らく毒は無いでしょう」
 そう言ってパルキアは断面の奥からずるりと大きな木の枝を取り出す。枝の先には、幾つかの見知らぬ赤い実が実っていた。

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