第39章


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 ――ボクが、消える?
 ギラティナの言葉に、アブソルは胸が冷たく鋭い何かを深々と突き刺されたようにずきりと響いた。
 消えたら、もうピカチュウ達とも会えない。楽しいとも、嬉しいとも、感じられない。
それが悲しいとすら感じなくなって、何もかも分からなくなって――。
「い、嫌だ、怖いよ……みんなの所に帰してよ……」
 考えれば考えるほど、底の無い泥沼に引き込まれていくような、言い知れない恐怖に体が震え、ぼろぼろと涙が溢れていた。

「ピカチュウ達が大切か?」
 ひくひくと泣きじゃくりながらアブソルは頷く。
「ならば、尚更帰ることは出来まい。聞け。アルセウス無き今の世界は大きく乱れようとしている。その末に待つのは、混沌と崩壊。お前達を襲ったコピーは前兆なのだ」
 びくりと反応し、アブソルはギラティナを見上げた。
「そうだ。アルセウスが健在ならば、ピカチュウ達があんな危険な目にあうことは無かっただろう。お前が力の使い方をもっと誤れば、犠牲は更に大きかったかもしれない。
……我らが、ただのポケモンとして仲間と一生を生きるなど、決して叶わぬ。死の定めを持つ者たちが持つ時間は、我らに比べてあまりに短く、脆すぎる。我らが幾ら定命の体を仮に得ても、我らの魂は否応無しに肉体を不滅に近しいものに変える。己だけが取り残され続ける孤独を味わうのだ」


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