第41章


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「っ、この――ッ!」
 飛び掛ってくるイトマルの短くも鋭い牙を、すんでの所でロズレイドは両腕の毒針を交差させて受け止め、
押し返して斬り飛ばす。三方を無数のイトマルに囲まれる中、ロズレイドとマニューラは二匹並んで懸命に
それを迎え撃ち、背後の木の洞で怯え震えているオオタチの親子を守る。だが、状況はジリ貧になる一方で、
じわじわと二匹は追い詰められていた。
 ロズレイドによって深々と斬り付けられた筈のイトマルがむくりと起き上がり、仔細無い様子で包囲網へ復帰する。
毒針も、葉による攻撃も効き目が薄く、ロズレイドにはイトマル達に決定打を与える手段が無かった。
 冷や汗を滲ませながらロズレイドは横目でマニューラを見やる。荒く息を漏らす姿にいつもの余裕はまるで無く、
その表情は思いなしか少し青ざめて見えた。
「大丈夫ですか、マニューラさん。まさか、毒を?」
 ロズレイドは不安に駆られ、声をかける。マニューラは黙ったまま小さく首を横に振るった。
確かにその体のどこにも咬まれたり刺されたりしたような傷は見当たらず、毒を受けたような形跡は無かったが、
やはりマニューラの様子はどこかおかしかった。襲い来るイトマル達をマニューラは次々と往なし、切り伏せていく。
だが、何故かその両手には普段は投擲にしか使わないナイフ状の氷の礫を握り、
己の爪ではなくわざわざそれでもってイトマル達を斬り付けていた。幾ら鋭利とはいえ所詮は氷製。
数回斬ればすぐに欠けるか折れるかして、その度に新しい刃を作り直さなければならない。それに、
イトマルが飛び掛ってくる度、マニューラは表情を強張らせ、妙に過敏に大げさな動きでそれを避けた。
何だか随分と無駄に体力を消耗しているようにロズレイドには見えた。一体、どうしたというのか。
こんな調子ではとても長く持ち堪えられそうに無い。

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