〜第3章〜 清奈


[32]2006年8月1日 夜7時29分A


動力室に続く階段を見つけるが、そこは地獄図に見えた。

足を踏み入れる隙間などどこにもない。
盛んに炎が揺れ、進む道を閉ざしている。
僕の行く手を阻む炎。
どう考えても、通る余地がない。目の前にあるのは炎の壁。作りがセメントであれ石であれ、壁の向こう側にいくことは不可能だ。

だけど

「通るしか無いよな……!」

清奈はすぐそこにいる。
絶対に、確実にいる。
賭けてもいい。
だから、ここで引きかえしたくない。

もう、自分が情けない人間だと悔いるのはごめんだ。
《私の合図と同時に前へ駆け込んでください。一瞬でも遅れると失敗です。よろしいですね?》
「うん」


目の前の炎の壁を、じっと見つめる。
嘲笑うように前を遮断するそれ。
嘲笑われるなんて、嫌だ。僕は、仲間の命を背負い、

《今です!!》

死ぬ気で炎に飛び込んだ。

炎は常に動き回るもの。
だからパルスは察した。
炎の壁が最も薄くなるその瞬間を。
僕は一直線にその壁の向こう岸へと走った。
熱い、と自分が感じるよりも早く。
階段を何段も飛ばして降りる。

「うあああああ!」

抜け出た!!

最後に前にダイブした!!
地面が階段の為、そのまま何段か転げ落ちる。

「痛っ……つ」

制服が焼け焦げているが、体は何ともない。

立ち上がる。
目の前に見える扉。
この先に……清奈が。

《ここから先はバトルモードに変身して行きましょう》
「そうする」

僕はなるべくバトルモードに変身しないで行くとパルスに予め言っていた。バトルモードになると、それだけでパルスの魔力が消費される。
ネブラと戦うのは必至。
だから僕は力を温存しておきたかったからだ。

「バトルモード、移行開始」

制服から、純白のコートに僕の体が包まれる。

右手に握られた白金の銃。
僕は心の準備を整え、目の前の扉を開けた。






広い。
目の前にある巨大な灰色の動力炉。
そこに

たった一人

いた




「清奈!!」

すぐに駆け寄る。

「大丈夫か!? 清奈!!」

凛々しく、それであって雄々しい彼女も、
今は、一人の少女に違いは無かった。

「……ゆ……う……」
清奈が口を開く。
息をきらしている。
依然清奈の力が衰えるのが分かる。

僕は、フェルミを手放している清奈の左手を、
優しく握った。


「悠……なぜ……お前が……」

清奈が僕に問う。
清奈の問いに、僕は悩むことなく、こう答える。

「理由なんて無いよ」

そして続けて

「仲間を助けるのに、理由なんていらないだろ?」

「なか……ま……」

その言葉は、嘗ての彼女が言うには余りにも弱々しすぎた。
しかし、清奈の目の光が僕の瞳に優美に移っている。

「だから……な? 清奈が全部1人でやることは無いんだよ。清奈には……僕やハレンがいるんだから」

清奈は
何も言わず、僕の目を背けた。

でも

また清奈と目が合う
彼女が持てる精一杯の力で精一杯の存在感で
僕を見て
僕の手を握ってくれた。

《ユウ。あの短剣を抜いてください》

清奈の影に刺さっている奇妙な短剣。
それを僕は引っこ抜いた。

《感謝するぞ、ユウ》

その途端、フェルミの声が聞こえた。
そうか。
清奈はこの短剣でフェルミの力を失ってしまったのか。

《セイナ、立てるか?》

「……当たり前でしょ。……ん……しょっ……」

清奈が起き上がる。

「よ……良かっ……た……」
と言って僕はどっと疲れが出た。

《今回はユウの手柄だ。セイナ、貴様は感謝せねばなるまい》


そうフェルミが言う。

「そんな感謝、別にいいよ。仲間を助けるのは、当然のことなんだからさ。それに今まで何度も清奈に助けられたしね」

《……ふん。聖人君子か、貴様は》

「あ……まあ……こんなのは二度とごめんだと思うけどさ」

清奈は終始無言を貫き通している。
今まで1人が主義だった清奈が、こういう話をするのは頂けないのだろう。

「……清奈?」

僕はなるべく清奈の気に障らないように、優しく言った。

「……すぐにここを出るわよ」

言ったのはそれだけに止まった。
そして清奈は扉の元へ歩く。
まだ、
僕も清奈も
どこかしら引っ掛かっている。

「大丈夫なのか?」

その言葉を無視し、扉へ向かっている。

「なあ、清奈」

ようやく足が止まる。

「何よ」

振り向いた。
その顔は、
戸惑いの色が伺える。

「清奈の体力は熱でかなり失っている。だから……1人で無茶するなよ」

「無茶なんかしてない」

「そんなこと……言っても……ほら! 僕がいるし……」

「助けなんかいらない」





《呆れるぞ、セイナ。まだそんなことを言っているのか》
「うるさい」
《過去のことなど水に流して忘れてしまえ》

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