第三章 迷い〜そして戦場へ〜
[01]第三七話
ここは射撃場。
科学省の地下に設けられたその巨大な施設に一人の少年がいた。
「くそっ……!」
如月は怒りに身を任せて、オートマティックの拳銃のトリガーを引いた。
連続する乾いた発砲音と同時に薬莢が排出され、弾丸が数十メートル先の人の形を模した金属板に弾痕を穿っていく。
やがて、トリガーをいくら引いても弾が出なくなった。
如月は素早くマガジンを取り出し、装填する。
そしてまたトリガーを引く。
この動作を五回繰り返したところで小休止を入れた。
「くそっ……。なんであんな事に!」
壁際に設けられた座席に腰を掛け、如月は悪態をついた。
彼の左隣りの壁にはコンソールが埋め込まれていて、如月のスコアが表示されている。
全弾ほぼ頭部中央に命中してハイスコアだが、如月はそれに目を向ける事なく無言で前を見つめた。
先の事件から二週間が経過している。
如月は科学省の輸送用ヘリコプターで病院に搬送された翌日に意識を取り戻した。
一方、今回の犯人と推定されている剛田武憲は、まだ意識が回復していないらしい。
父である如月慶喜が言うには、何者かが剛田を心理的に誘導、洗脳した上で幻獣神との契約に近いものを結ばせたという。
それを聞いた時、如月の頭に何かが引っ掛かった。
それは今でも分からないが、直感的に剛田の暴走を招いたのは自分だという認識がある。
それは確かに申し訳ないと思う如月だが、それと同時に怒りで彼の内は満ちていた。
意識不明の重体になるまで友人を傷つけた。
しかも加害者の自分は何も覚えていない。
この二つの事実が如月を苦しめることになるのは簡単だった。
友人を傷つける事を断じて許すまいとする思い。
皆の平穏を脅かす異形の者を排除しようとする決意。
その相対する決然とした二つの覚悟は、ぶつかりあい、せめぎあい、揺らいでいた。
「俺のせいで剛田はああなった。やはり仲間を絶対に傷つけないというのは不可能なのか………?」
結論の出ない迷いに、さらに沸き立つ怒りを押さえようと拳銃を再び手にとった。
その時、
「やっぱりここにいたんですか」
「…………」
如月は床の白線の前に立つと、無言で撃ち始めた。
ネルフェニビアは何も言わず、発砲音が単調なリズムが射撃場に響く。
全ての弾を撃ち切り、マガジンを入れ替えようとした時、
「待ってください」
装填をしようとする如月の腕をネルフェニビアが押さえた。。
「少し、散歩しませんか?」
如月は、数秒経ってから腕を下ろした。
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