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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[98]３月６日(土方)

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｢トシ、頼みがあるんだが…ゴホッゴホン。

お寺の孤児達と遊園地に行く約束してたのに…ゥゲホッゲホッ…風邪ひいて、今朝から熱があるんだよ…ゴホッ。

俺の代わりに、華蓮さんと一緒に行ってやってくれないか？｣

そう言われて仕方無くやって来たのは、大江戸遊園地の入り口前だった。

ここで待っていれば華蓮が子供達を連れて来るらしい。

正直、俺は子供があまり好きではない。

本能のみで生きてるから人の傷付くような事をストレートに言うし、自分の我が通らなければ泣きわめくし、眠たくなりゃ所構わず寝やがるし…。

近藤さんの命令だから仕方無く来たけど、本当ならこんなボランティアなんざ御免被るところだ。

春爛漫の陽気の下、散りかけた梅の花を眺めて待っていると、遠くから見慣れた男の姿が見えた。

白髪の天パ。死んだ魚のような目…

万事屋だ。

全く…面倒な仕事を頼まれた上に嫌なヤツに出会うなんて、どんだけツイてないんだ、俺は。

ヤツも俺の姿を見るなり、露骨に嫌そうな顔をした。

よく見ると、その傍らには五人の子供を連れている。

はて、どうしたものか？

｢おぅ。マヨネーズ王子じゃねェか。

何だよ、どっかの尻の軽いネェチャンと待ち合わせか？

ジェットコースターで『キャーッ』ってなって、お化け屋敷で『アタシ怖ァ～い！』って腕組んで、とどめは観覧車で『チュ～ッ！』てか。｣

｢バ～カ。誰が今どきそんな古いラブコメみたいなベタなデートするか！

お前こそ何だよ。

華蓮に黙ってキャバ嬢と同伴か？それともアフターか？｣

相変わらずの悪態をつく万事屋に同レベルの悪態で言い返すと、ヤツは信じられない返答をしやがった。

｢このクソガキらのどこがキャバ嬢だ！

お寺のガキだよ。

華蓮が体調崩したから、『代わりにゴリラと一緒に遊園地に連れてってやってくれ』って頼まれてよォ。｣

…え？

華蓮の代わりにって…

てことは…

俺、今日一日コイツと子守りィィィ!?!?!?

嘘だ、ウソだと言ってくれ、神様ァァァ!!!!!!

・―・―・―・―・―・

｢銀ちゃんパパ、アレに乗ろうよ！｣

遊園地に入るなり一番最初にガキどもが選んだのは、よりによってメリーゴーランドだった。

うわ、甘ったる…。

｢いいねェ、メリーゴーランド！

やっぱ、とりあえずメリーゴーランドだよな、遊園地来たら。

お前いいセレクトしてるよ、ホント。

お前、絶対将来女に困んないわ、ウン。｣

『パパ』と呼ばれて喜んでいるのか、万事屋は上機嫌だ。

｢アタシ、白いお馬さんにする！

トシパパはどれに乗る？｣

ト…トシパパ!?誰だ、こんな呼び名を教えたのは!!

引き吊る俺の表情を見た万事屋が、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

コイツか、クソッ!!

慣れない呼び名に戸惑っていると、また万事屋がガキに入れ知恵をする。

｢あれェ？トシパパは[トシパパ]って呼ばれるのが嫌なんだってさァ～。

じゃあ代わりに[マヨパパ]って呼ぶ事にしちゃおぅかァ～。

よし、じゃあみんなで呼んでみよう！せーのっ!!｣

｢マーヨーパーパー!!｣

ガキどもと[うたのおにいさん]な万事屋が、俺に向かって新しい呼び方で叫んだ。

道行く人々が、オッサン二人とガキ五人という奇妙なコラボレーションに振り返る。

｢こんなとこでやめてくれ、恥ずかしい!!

もうわかった、もういいから！

[トシパパ]でいいから!!｣

ヤツらはまたニヤリと笑い、メリーゴーランドに向かって歩き出した。

｢ねぇトシパパ、お馬さんが高くて乗れないよ。

抱っこして乗せて！｣

一番末の女の子が、俺にせがんだ。

脇を持ち上げて乗せてやると、本人が想像していたより高かったらしく、ハンドルにしがみ付いて半泣きになっている。

｢怖いのか？

じゃあ降りろよ。降ろしてやるから。

そんで馬車かなんか乗れ。アレ低いから。｣

俺が両手を差し出すと、ガキはその手をハンドルに持って行き、

｢イヤ！この白いお馬さんがいいの。

だからトシパパ、一緒に乗ろ！｣

と、ねだった。

｢えっ、いや、俺は乗らな…｣

こんな甘ったるい乗り物、天下の真選組副長の俺が乗れるかってんだ!!

しかしこの子の透き通るような眼差しと、腕に添えられた小さな手の魔力に導かれ、気が付くと俺は白い馬にまたがってしまっていた。

片手でハンドルを握り、片手で子供を抱くと、メリーゴーランドがゆっくりと発車した。

ガキは俺の腕の中で、先ほどの半泣きがウソのようにキャッキャとはしゃいでいる。

例えば…

例えば娘とかいたら、やっぱ俺もこんな風に抱き抱えてメリーゴーランドの白い馬に乗るのかな。

そんで将来『私の白馬の王子様よ』なんて言って男を連れて来たら、『どこの馬の骨とも知れん男に、うちの娘をやれるかァァァ!!』とか言うのかな。

そんな思いを廻らしながら乗っているうちに、メリーゴーランドはメロディーが止み、速度も緩まり、停止した。

ガキを馬から降ろしてやると、ニコッと笑って俺の手を握った。

｢行こ、トシパパ。｣

小さくて温かくて柔らかいその手に引かれながら、後ろのピンクの馬に乗っていた万事屋を見ると、馬の上にまたがったまま泣いていた。

｢ううぅ…将来さ、娘がさ…ヒック…

『私の白馬の王子様よ』なんて言って男を連れて来てさ、俺は言うわけだよ。『どこの馬の骨とも知れん男に、うちの娘をやれるかァァァ!!』ってさ。

でもさ、悲しいかなメリーゴーランドの如く、自動的に娘はどっかの馬の骨に乗っかって嫁(い)っちまうんだよ、きっと…ウェ～ン!!｣

いや、まだお前んちのガキ生まれてないから。

てか、娘かどうかもわかんないから。

…てか、俺と同じ事考えてたのか？

あー胸クソ悪っ!!

・―・―・―・―・―・

次は人工池のスワンボートに連れて行かれた。

｢…で、何で俺が男の子３人乗せて、お前が女の子２人だけなわけ？｣

万事屋の仕業により、俺はスワンボートに３人の子供を乗せて漕ぐハメになっていた。

チクショウ、覚えてやがれ！

｢よし、じゃあ漕ぐぞ。

危ねェから立ち上がったり、身ィ乗り出したりすんじゃねーぞ。｣

俺は足下にあるペダルを一足踏み込んだ。

その瞬間、ドンッ！と音がし、船体が揺れた。

何事だ!?

｢アレ～？ごめェ～ん！

なんかァ、隣の小汚いアヒルボートにぶつかっちゃった感じィィィ!?｣

窓の外を見ると横からものすごい勢いで、同型のボートが俺達を抜いて行った。

中からは女の子２人と万事屋がニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。

｢わっ、やられた！

ねぇトシパパ、銀ちゃんパパに負けちゃダメだよ！

早くあっちを追い越してよォォ!!｣

男の子３人が運転席の俺の袖を引く。

｢ねぇ、トシパパ。

いつも近藤お父さんが言ってるよ。『トシはかっこいい』、『トシは侍の中の侍だ』って。

だからね、僕ら、かっこいいトシパパが見たいよ。

ね、ね、トシパパお願い!!｣

その言葉に俺は、大人げなく奮起した。

｢…よーしお前ら、見せてやるよ！

これが侍の中の侍、[鬼の副長]土方十四郎だァァァ～!!｣

俺は狭い船内で立ち上がり、ペダルを立ち漕ぎでフル回転させた。

スワンボートはみるみるうちに万事屋達に追い付いた。

後部座席に乗るガキどもも、あまりの速さに興奮しきりだ。

｢よォォ～っしゃあァァァ～!!

一気に追い抜くゼェェェ～!!!!

どけどけどけどけェェェ～!!!!!!｣

そんな彼らに触発され、さらにヒートアップした俺は、万事屋スワンの尻に体当たりをお見舞いしてやった。

ドンッ!!

｢あぁー!!てめぇコノヤロー、オカマ掘りやがったなこんちくしょー！｣

万事屋のスワンは器用に向きを変え、こちら向きに構えたかと思うと、猛スピードでやってきた。

｢うらァァァ～～～!!｣

ドンッ！

体当たりした鈍い音がした後、

メキメキメキメキ…

ボッシャ～～ン!!

というとんでもない音が付属した。

そこにいた全員が窓から顔を出し、スワンの上を仰ぎ見た。

スワンは２体共に首から上がもげていた。

・―・―・―・―・―・

｢子供達のテンションにも疲れたところで、おとなしく射的でもしようか｣

と、珍しく万事屋と意見がまとまった。

さっきのボートレース以来、男の子３人組は俺を気に入ったらしく、着物の袖を離さない。

そいつらにひとつずつ射的用の空気銃を持たせ、俺は後ろに下がり、眺める事にした。

しかしぎこちない手つきで撃ち放つ為、弾は的に当たらず逸れてばかりだ。

そんな彼らを見ていると、武州で無邪気に戯れていた頃の俺達を思い出した。

毎日毎日飽きもせず、ケンカに遊びに剣の日々。

だけどそんな俺達も、今では立派な門の屋敷を構える武装警察[真選組]となった。

｢ホラ、ここ持ってみろ。

そんで左手はこう…そうそう。｣

俺はいてもたってもいられず、気が付けばガキの背中越しに銃の構え方を教えていた。

｢いいか、そのまま体の軸、動かすんじゃねぇぞ。

行くぞ！せーの…｣

ガキの小さく細い指と俺の指を重ね、頬と頬を引っ付けて目線を合わせ、呼吸があった瞬間に引き金を引いた。

パンッ!!

銃は乾いた音をさせ、的に向かって飛び込んで行った。

弾は的のど真ん中を射った。

｢おめでとうございます!!

一等賞品はこちら、大江戸遊園地のキャラクタージャンボぬいぐるみです!!｣

・―・―・―・―・―・

夕方、疲れ果てて眠ってしまった下の子二人をそれぞれ万事屋と俺で背負い、帰路についた。

｢まったくイイ気なモンだよ。

こっちも疲れてるってのによォ…。｣

そう言いながらも、この重さが心地好く感じられる。

俺の袖には相変わらずガキが引っ付いており、一人はさっきの射的で当てたジャンボぬいぐるみを抱えている。

｢お前、そんな大きなの貰っちゃってどうすんだよ？

置く場所あんのかよ。｣

するとガキは嬉しそうにぬいぐるみを両手で抱き締め、言った。

｢一緒にお布団で寝るんだもん。これから毎日。

そしたらね、きっとトシパパみたいにかっこいくなるから。

的にパンッ！って当たるから。｣

どうして子供ってのは、こんな恥ずかしいセリフをサラリと言ってのけるのだろうか。

聞いてる大人は照れるんだからな…

嬉しいけどな。

・―・―・―・―・―・

｢ゥゲホッゲホッ…

なんか封書が来てるぞ。

何なに？

【スワンボート２台請求書】

…なんだコリャ？｣

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