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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[96]２月２８日( 〃 )

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｢基本、お前は甘いんだよ。

心根、ルックス、向上心、全てにおいて甘いよ。甘過ぎるよ。

甘過ぎて糖尿病になっちゃうよ、コレ。｣

またうちにやって来た野武流に、説教垂れてやった。

｢だいたいアレだよ、自分が出世するのに人頼みってお前、どんだけ甘ちゃんなんだよ。

じゃあ何か？島耕作はい～っつも誰かを雇って雇って雇い続けて、今の地位に上り詰めたってか？

違うだろーが、ボケ!!｣

名前負けの野武流は、シュンと下を向いている。

｢だがな、やっぱキッカケってのは大事だよ。

キッカケ１つで快進撃を始める奴もいるからな。

だから、今回だけは俺達が協力してやるよ。

ただしこれっきりだからな！｣

野武流は涙を湛えた瞳で、すがるような視線で俺を見た。

…あれ？なんかその瞳(め)、かわいくね？もしかしてコレって使えるんじゃね？

｢…野武流…お前、悲しくなくても泣けるタイプ？ホラ、女優さんみたいにさ。｣

すると奴はウルウル目のまま答えた。

｢え～っと、昔飼ってた犬のコロが死んだ時の事とか、おじいちゃんが死んだ時の事を思い出したら泣けると思います。｣

よし、コレはイケる！

このアイドル系のウルウル瞳で見つめられてみろ、そこら辺のバカ女なんかイチコロだよ。

｢よし、お前とりあえず客が来たら泣け。

それをする事により、お前の中にある[カワイイ]の部分を露呈する事が出来るのだ！｣

野武流は若干残念なおつむの持ち主の様できょとん顔だが、いちいち立ち止まってられないので放ったらかして次へ行く。

｢それと、そうだなぁ…とりあえずその髪はナイわ。

今どき黒髪のポニーテールってお前、ベタなラブコメの幼馴染みヒロインじゃないんだから。

よっしゃ。新八、電気バリカン持って来い。｣

俺は奴の返事も許可も得ず、勝手に髪の毛のカットを始めた。

自分で言うのも小っ恥ずかしいが、俺は意外に手先が器用で、攘夷時代もヅラや竜馬達のカットを一手に引き受けていた。

だからカットに関しては、素人ながらそれなりの定評と自信があるのだ。

｢よし出来た！イイ感じじゃねェか！｣

野武流はやはり元々顔が良いだけあり、このカットもよく似合っていた。

｢ホ～ラ、ホストの定番、長めのショートカットの出来上が…

フェ…フェ…フェックシュン!!

………あっっっ!!｣

飛び散った小さな髪の毛が鼻に入ったのか、くしゃみが出た。その時の勢いで、奴の頭に電気バリカンが当たってしまい、後頭部中程に十円ハゲが出来てしまった。

側で見ていた新八と神楽も血の気が引いている。

ヤバイ！このままでは指名はおろか、店に出る事すら不可能だ。

ヤバイ、マジでヤバイよ！

もう[支度金]とかいう名目でお金貰っちゃってるしなぁ。

よし、ここは苦肉の策を講じよう。

え～とえ～と…

｢…やっぱ今，時代はアーティストだよな。

中でもやっぱアレだよアレ、歌手の[江草煎る]だよな、ウン。

アイツらの人気ぶり見てみ。奴らで地球が回っていると言っても過言ではないよ。

だからお前もそんな伸びきったスポーツ刈りみたいな髪型なんか止めて、[江草煎る]になっとけ！

時代をリードするカリスマとして生きて行け!!｣

そう言い放ち、俺は電気バリカンを野武流の頭に走らせ、一気に五分刈りにした。

そして[江草煎る]のメンバーの如く丁寧にカミソリでオシャレな筋を…

アレ？あの筋って何本作るんだっけ？

三本…いや、五本か？

いやいやもっとこう、方々に沢山あったような…

｢よ～し出来た！

コレで良かろう…って

……っっっ!!｣

調子にのって筋を入れ過ぎ、気が付けば野武流の頭は[江草煎る]どころかバレーボールになってしまっていた。

｢野武流…お前は今日から[バレーボール好きキャラ]として生きて行け。いいな。｣

おつむの弱さが幸いし、奴は何も疑う事なく首を縦に振った。

フゥ～、危ない危ない。

｢次は服装だが…

やっぱホストはスーツが基本だからそれは外せないとして、問題はそれをどう着こなすかだ。

例えばだな…｣

俺は第２ボタンまで開けてあるシャツのボタンを、第４ボタンまで開けてやった。

｢こうする事によって、他のホストとの差別化を図れるのだ。｣

野武流はウン、ウン、と頷いている。

｢フッ…お前ら甘いネ。甘々ネ。

甘過ぎてアメリカのチェリーパイアルよ。

これだからガキは…。｣

フゥッと溜め息をつきながら神楽が何かを持って来て、奴の胸元にペタリと貼り付けた。

｢男にはこれくらいのワイルドさが必要ネ。｣

神楽が付けたのは、モジャモジャの付け毛だった。

｢世の中には[胸毛フェチ]もいるはずネ。

そいつらターゲットにして、指名バンバン独占企業アルよ!!｣

神楽は自信たっぷりにふん反り返った。

コレで野武流がバンバン指名される程[胸毛フェチ]がいるのかと言うと定かではないが…

まぁ本人が｢そうか！｣という顔をして大絶賛しているので良しとしよう。

｢あ、そういえば『香りも大事だ』って姉上が言ってましたよ。

『さりげなく香るムスク系がそそる』とかって。｣

それまで黙って大人しくしていた新八だが、神楽に対抗心を燃やしたのか、突如口を挟んだ。

ムスク？何だそりゃ。

叫んでる絵画か？それともガチャピンの赤い相方か？

まぁ何でもいいや。とにかく香水を振り掛けてみよう。

俺は華蓮の鏡台から香水を取り出した。

アイツの事だ、きっとブランド物ばかりに違いない。

だからどれを使ってもハズレは無いだろう。

｢ホラ野武流、目ェつむれ！

それっ!!｣

俺は奴の顔目掛けて香水瓶の頭をプッシュした。

これで良い香りが…

…って……え？アレ？

何だコレ。あんま良い匂いしねェぞ。

何の匂いだっけ、コレ？

瓶の説明を読むと、どうやらこれは柑橘系の香りだったらしい。

しかし野武流の体臭と相まってか、何故だかマジックリンのような異臭を放っているのだ。

ウワ～、これじゃあ逆効果じゃねぇかよォォォ！

こんな洗ったばっかの風呂みたいな匂いさせてたんじゃ、女なんか落ちやしねぇって!!

落ちるのはせいぜい風呂アカぐらいだって!!

しかし当の野武流は自分から放たれる香りに酔いしれ、気に入ってしまったようだ。

まぁ、本人が良いってんなら…

良いんじゃね？

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画して野武流は[ニュー野武流]として生まれ変わった。

しかし、

｢ありがとうございました、万事屋の皆さん！

これで僕も一人前のホストですよね。

よ～し、今日からバンバン指名取って、No.1目指すゾォー!!｣

と本人は至ってお気に入りの様子だが、正直俺としては…

ウルウルお目々に筋の多過ぎたバレーボール頭、ヘソまである胸毛、さらには身体中から漂うマジックリン臭…

｢これであの女性達から聞いた【男に言われて嬉しい言葉】っていうのを耳元で囁けばＯＫなんですよね！

僕、頑張りますね!!｣

彼的には俄然お気に入りの様子だが、端から見れば相当な勘違い野郎この上無しだ。

だが、わが万事屋のモットーである『お客様のニーズにお答えし、喜んでいただく』には添っているので、良しとしよう。

俺達三人は、夕暮れのかぶき町を嬉々として店に向かう彼を、静かに見送った。

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