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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[94]２月２０日(華蓮)

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妊婦は身体を冷やしてはいけない。

誰もが知る社会的常識だ。

それに則り、今年に入ってからの私は日中でも市中見廻りに行かせてもらえない。

屯所内での地味な事務処理のみ。

愛刀カトリーヌも刀掛けに乗せたまま、開店休業中だ。

｢あ～、つまんない…｣

市中見廻りで隊士の出払った屯所で、一人呟き伸びをした。

ふと目に留まった部屋の床の間に鎮座するカトリーヌを手にし、ゆっくりと鯉口をきってみる。

私の手にしっくりと馴染むその柄は、腰に帯刀されない事に恨み言を言っているかのようにも思える。

そろそろ産休準備に入らなければならない。

そうなるとやはり、女子隊長の椅子を誰かに譲らなければならないだろう。

考えられるのは京子、彼女しかいない。

今まで私が築いて来たものを安心して預けられるのは、女子隊最年長の彼女だけだ。

ふぅっと溜め息をつき、カトリーヌを静かに鞘へ収め、刀掛けに返そうとした…

その時だ。

人の気配がした。

隊士？いや、違う。

明らかに部外者。

それも穏やかな気ではなく

殺気…！

私は畳一枚分飛んで下がり、愛刀を構えた。

その瞬間天井の板がはずれ、勢いよく短刀が降ってきた。

｢何奴!?｣

声をあらげると、上から三味線を担いだサングラスの男が飛び降り、現れた。

｢…河上万斉…!?｣

局長から手渡された資料で見掛けた男、高杉晋助率いる鬼兵隊所属、河上万斉。

人斬りながら絶対音感を持ち、音楽的にも優れているという。

｢現時点で既に不法侵入罪および殺人未遂罪よ。｣

天然理心流にならい、刃先を奴に向けて低く構え、精神面からの鎮圧を図る。

しかしさすがは過激派攘夷浪士と言うべきか。

私の威嚇になど眉一つ動かさない。

｢女子隊長、やっぱアンタも女でござるなァ。｣

畳につき立っている短刀を拾い上げ、河上は言った。

｢以前は自信に満ちた右上段の構えだった。

しかし赤ん坊が出来た今じゃあ、腹の前で守りの下段構え。

落ちぶれたもんでござるな…ククク。｣

奴は短刀の背をペロリと舐めた。

｢そんなヘタレた女子隊長じゃあ、もうどうせお払い箱でしょうが。

とっとと辞めてしまうか、それとも拙者に斬られるか…どっちがいいでござるか？｣

｢…どっちも御免被るわ。｣

下段構えのまま奴に一歩にじり寄り、得意の右上段構えにゆっくりと切り替えた。

｢…お、魂の鼓動(リズム)が変わった。

陽気なＪ-ＰＯＰから、重厚なハードロックでござるな。｣

河上は短刀を私の顔先に突き付け、ニヤリと笑った。

｢だけどあと数秒後には違う鼓動にチェンジするわ。

そう、鎮魂歌(レクイエム)にね。｣

久々の柄の感触を感じながら、私は深呼吸し、意を決して言った。

｢真選組女子隊長坂田華蓮、参る。｣

｢…鬼兵隊河上万斉、参るでござる。｣

言い終わる前に、私は奴に向かって斬りかかっていた。

右上段構えから袈裟懸けに下ろし、一気に片を着ける。

…はずだった。

しかし河上は、血を流すどころか、私目の前から姿を消した。

｢なっ…河上…!?｣

その時、首元にヒヤリと鉄の温度を感じた。

｢鎮魂歌なら、拙者の方が得意でござるよ。｣

河上は私の背後から短刀を突き付けていた。

｢初代真選組女子隊長坂田華蓮…

その首、いただくでござる!!｣

短刀は私の首根っこをスライドした。

しかし同時に私は愛刀を投げ捨てて奴の腹に左肘鉄を食らわし、怯んだ一瞬に左肩越しに突きをお見舞いした。

｢あ…ガハッ…｣

河上は腹と顔へのあまりに唐突な攻撃に、しゃがみ込んでむせてしまった。

｢鎮魂歌は勘弁してあげるわ。｣

私は奴を後ろ手に取り、手錠をはめた。

｢譜面(ピース)不足ね。

私、剣よりも拳の方が得意なの。

アドリブの利かない、型通りのカデンツ以外にもコードを勉強しないと、ソロ演奏は無理ね。｣

河上は私の片膝に敷かれ、微笑をたたえながら言った。

｢なかなかロックンロールな母ちゃんのようでござるな…フフフ。｣

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