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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[87]１月２０日(新八)

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妊娠が発覚してから、華蓮さんがお酒の類い一切を断ち切った。

あのザルで酒豪で愛飲家の華蓮さんが、だ。

｢妊娠中から授乳期を終えるまでの、たったの二年弱でしょ？

お腹の子を護る為なら、断酒ぐらい屁でもないわよ！｣

そう宣言して一週間。

只今の彼女はというと…

｢…ねェ、新八君。

お酒って、お米を蒸して作るんだよね…。｣

台所でお米をとぎながら華蓮さんが呟いた。

｢お酒は駄目ですよ、華蓮さん！

だいたい一般家庭で蒸留なんて無理ですからね。

しっかりして下さいよ。あなたお母さんでしょ！｣

やはり酒浸りの日々を送ってきた彼女にはこの生活は辛いらしく、ちょっと気を抜くとすぐにアルコールの事を考えてしまうようだ。

だからそばで生活する僕らの監視が必要となる。

しばらくすると、肉ジャガの下ごしらえを終えた華蓮さんが何かのボトルをじっと眺めていた。

｢どうしたんですか？

早く野菜に味付けしないと…｣

僕が顔を覗き込むと、彼女は虚ろな目で言った。

｢…ねェ、新八君。

料理酒って、アルコール度数いくら？｣

｢あ!!コラ、またアルコールの事考えてる。

度数うんぬんの問題じゃないでしょ!?

だいたい普通のお酒と違って料理酒なんて飲めたもんじゃないですからね。｣

僕は料理酒のボトルを取り上げた。

全く油断の隙もあったもんじゃない。

華蓮さんはアルコールを欲した口を、牛乳で誤魔化していた。

｢…ねェ、新八君。｣

ホラまた出た。

華蓮さんの『…ねェ、新八君。』

今度は何だ!?何を飲もうとしている!?!?

僕は早足で台所に駆け付けた。

｢ビールってさァ、麦から出来るんだよね。｣

その手にあったのは、天ぷらを作ろうと取り出した小麦粉だった。

｢麦は麦でも、ビールは大麦でしょ！

小麦、しかも粉に挽いてあるんじゃビールになんて遥か縁遠いですよ。

どーやってこれをビールにするつもりですか!?全く…。｣

僕は用意してあったボールに卵と水と粉を入れ、華蓮さんに手渡した。

｢…よし、これを発酵させると…｣

｢だーかーらー、アルコールは発生しないっつってんでしょ!!｣

本っっっ当にアルコールを愛してやまない女(ひと)なんだな、この人。

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道草しながらもどうにかこうにか出来上がった夕飯を、みんなで食べた。

安定期に入るまでの妊娠さんはたいてい悪阻(つわり)の吐き気に悩まされると聞くが、華蓮さんは全くその気配が無い。

それどころか今までに増して食欲が旺盛になった。

彼女の話しによると、悪阻には二通りあり、１つは例の吐き気がする[吐き悪阻]、もう１つはとにかく食べていないと気持ち悪くなる[食べ悪阻]だという。

彼女の場合、前回は前者だったが、今回は後者なのだそうだ。

今回も前者なら幸いだったのになァ。

そうすれば気持ち悪くてアルコールどころじやなくなって、簡単に断酒出来るだろうに…。

｢坂田サーン、アホノ坂田サーン。｣

そんな事を考えていたところへ、お登勢さんの店のキャサリンさんが勝手に玄関の鍵を開けて入ってきた。

さすがかつて[鍵っこキャサリン]と呼ばれた大泥棒だけの事はある。

｢どうぞ｣とも言われてないのに、キャサリンさんはズカズカと坂田家の食卓に踏み込んできた。

｢坂田サーン、コレオ登勢サンカラノ差シ入レネ。

感謝シロヨ。｣

相変わらずの可愛げの無さで言ったかと思うと、愛想の１つも振らずにサッサと階下へ降りてしまった。

テーブルの上にはこの時期珍しい巨峰が２パックあった。

｢食後のデザートにちょうど良かったですね。

早速洗っていただきましょう。｣

流し台に行こうと僕がパックに手を伸ばすと、何かしら強い視線を感じた。

まさか…

｢…ねェ、新八君。｣

ホラねー！来たよ、やっぱ来たよ、『…ねェ、新八君。』が!!

ハイハイ、今度は何!?

｢ブドウ２パックで、どれくらいの量のワインが作れ…｣

｢あ～～もぅ～～!!

だからワインなんて、一般市民が一朝一夕に作れるシロモノじゃないでしょ!!

ブドウと樽と冷暗所がありゃ出来るっていうお手軽さは、奴にはこれっぽっちもありゃしませんよ!!｣

…しまった。

[マタニティ・ブルー]と呼ばれるナイーブな次期の彼女に、僕はテーブルを叩いて怒鳴ってしまった。

あんなにお酒好きだった華蓮さんに断酒の手助けをしてあげるどころか、僕はイライラして怒鳴りつけてしまった。

僕の突然の怒りに驚いたのか、華蓮さんはハラハラと涙を流す。

銀さんや神楽ちゃんも同席する食卓は、それまでの楽しい雰囲気から一転して重苦しいものとなった。

｢あ…

ごめんなさい、つい…。

今日、一日中華蓮さんのアルコール防御に付き合ってて、なんか心身共に疲れちゃって…。

でもごめんなさい！

華蓮さんは悪くないですからね!!｣

僕はハンカチを懐から出し、華蓮さんに手渡した。

それを受け取り涙を拭うが、それでもまだ彼女の涙は止まらない。

僕は妊娠さんに向かって、なんて残酷な言葉を浴びせたんだろう。

自責の念にかられながら、席に戻る。

すると、華蓮さんがまた例の言葉を放った。

｢…ねェ、新八君。｣

｢ハイ、何ですか。｣

僕は出来るだけ丁寧に優しく応えた。

｢じゃあさ…

この巨峰の赤ワインが作れないなら、マスカットの白ワインなら作れる？｣

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