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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[86]１月１４日(土方)

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｢トシ、昨夜逮捕した夜鷹の女の調書を取っておいてくれ。｣

近藤さんからの指示で、俺は取調室へ向かった。

朝からの雨で空はドンヨリと重く、廊下を歩くと底冷えする。

足元が板の間である取調室も、寒い事間違い無しだ。

俺は溜め息をつきながら取調室のドアを開けた。

すると既に中で座っていた夜鷹の女が、俺の方に振り返った。

｢……!!｣

俺は思わず息を飲んだ。

その夜鷹らしく着物の襟元を大きくはだけさせた女は、あろうことか…

かのミツバに瓜二つだった。

｢何だい？

ボサッと突っ立ってないで、サッサと終わらせちまいなよ。

この部屋、寒くていけないよ。｣

｢あ…あァ。｣

女に促され、俺は席についた。

しかしこんな事があるもんだろうか。

死んだ女と同じ顔を持つ女が目の前にいる。

調書を開きペンを走らせるが、動揺から顔を上げられない。

どうしたらいいんだ。

[鬼の副長]ともあろう土方十四郎が、この程度の偶然に心乱されるなど有り得ないはずだ。

その甚だしいばかりの動揺を察知したのか、女が急に椅子から立ち上がった。

｢何をしている、取調べ中だぞ！

おとなしく席に…｣

しかし俺の発言を遮るかのように、女が俺の耳を舐めた。

｢!!…な…何す…｣

ミツバの顔は、俺の耳元でネットリとした口調で囁いた。

｢ねェ、お偉いサンさァ、昔から言うじゃない。

『魚心あれば水心』…ってね。｣

女の手は俺の下半身へ伸びた。

｢ちょっとだけ、ちょっとだけでいいんだよ。

調書をさ…私の有利になる様に、ちょっとだけイジってくんないかなァ～。

こんな風に…｣

女は慣れた手つきで股関をまさぐり始めた。

｢や…やめろ…何す…｣

｢やめろ？

おや。身体はまんざらでもないようだけどねェ。｣

ミツバの顔の女は、ニヤリと口角を上げ、さらに動きを強める。

｢やめてくれ…｣

哀願にも似たその言葉を揉み消すように、俺の中で煩悩が騒ぎ始める。

男とはなんと弱い生き物なのだろう。

目の前で快楽をチラつかされると、手を出さないまでも身動きが出来なくなる。

｢やめてくれ…｣

本当のミツバに対する申し訳なさと、目の前にミツバがいる事実とが混同し、男としての俺が揺らいでいる。

｢あぁ…｣

既に死んでいるとはいえ、愛する女の為に断ち切ろうか。

それとも同じ顔の女に流されてしまおうか。

正しい判断力も奪われてしまう程のプロのテクニックに翻弄される俺は、思わず強く目をつぶった。

すると瞼に、あの日俺達を黙って見送った悲しい瞳のミツバが浮かんだ。

それは驚くほど鮮明に。

｢や…やめろ！ミツバ!!｣

俺は女を突き飛ばし、椅子ごと床に倒れ込んだ。

｢アン？なんだい、ミツバってのは。

アンタの女かい？｣

席に戻り、女は足を組んで浅く座り、床にへたり込む俺を上から見下ろして言った。

｢ふ～ん。なかなかやるじゃないか、アンタ。

アタシのテクにかかりゃ、女や嫁がいる男だって全て私に溺れていったよ。

だけどアンタ、そのミツバとかいう女を想って、このアタシを拒んだ…。

大したもんだよ。

羨ましいねェ、ミツバさんが。フフフ。｣

天井に向かって笑ったかと思うと、女は俺の前に両手首を差し出した。

｢丁度いいや。

そろそろ年齢的にも夜鷹暮らしはキツイと思ってたんだ。

引退するいい機会だ。

アタシを牢屋でも監獄でも連れてっとくれよ。｣

また女はニヤリと口角を上げた。

冷たい床で冷静さを取り戻した俺は、ミツバの顔を持つ女に手錠をはめた。

ガシャリと重く冷たい音が取調室に響き渡った。

女はうつ向いたまま、隊士に連れられて部屋を出た。

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俺は武州を出てから一時期、ミツバを忘れる為と称し手当たり次第女と関係を持っていた。

遊郭の花魁、道端の夜鷹、商家の娘…

気に入ろうが気に入らまいが、女とみればとにかく抱いた。

しかし当然ながらミツバへの想いは消える事はなかった。

それどころか想いは増幅する一方だった。

それに気付いてからは、女との一切の交わりを絶った。

しかしその想いも虚しく、俺はアイツを幸せにしてやる事なく死なせてしまった。

そして今…

ミツバ亡き後も、こうして他の女を受け入れられずにいる。

ミツバの呪縛とでも言おうか。

お前を置いてきぼりにして田舎を出た報いか？

それとも悪人とはいえお前の婚約者を斬った罰か？

どうであれ、俺は一生ミツバという名の牢獄に縛られ、よその女との関わりを持つことなく過ごすのであろう。

それに逆らおうとすれば、あの日のミツバが俺を戒める。

わかったよ。

お前の仰せの通り、清らかなままでお前の元へ行くよ。

こんな斬った斬られたの仕事だ。そっちに行くのもすぐさ。

だからお前も、あの日の清らかなお前で待っていてくれ。

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