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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[85]１月９日(定春)

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お登勢さんからおいしいアジの干物を貰った。

タエオや金ちゃんもこれが大好物だから、みんなで分けて一緒に食べよ。

僕は雪の積もった道を歩いて、タエオと金ちゃんの住む屯所へ向かった。

｢アンッ！｣

毎朝華蓮ちゃんを送って来た時に出会う、顔見知りの門番さんにご挨拶すると、

｢よっ、定春。

タエオと金ちゃんに会いにきたのか？｣

と頭を撫でて、扉を開いてくれた。

お庭に入ってキョロキョロと見回していると、屋根の上から｢ニャー｣と呼ぶ声が聞こえた。

見上げると、タエオが僕に手を振っている。

｢こんな寒い日にどうしたの？

金ちゃんはおこたで寝てるんだよ。｣

そう言って、タエオは屋根から僕の背中めがけて飛び降りた。

黒くてしなやかな毛色のタエオは、僕の背中で丸くなりながら、クンクンと鼻を利かせた。

｢いい匂いがする。

コレお魚？｣

僕の首から下げてあるビニール袋に顔を寄せて聞いた。

｢アジの干物。

一緒に食べよう。｣

袋から取り出し、半分に割いて差し出すと、タエオはキチンと｢いただきます｣をして食べ始めた。

タエオはとても礼儀正しい。

お部屋に入る時にはちゃんとノックしてから入るし、戸も開けっぱなしにしたりしない。

｢いただきます｣、｢ごちそうさま｣、｢ありがとう｣のご挨拶も忘れない。

これらは全部あのゴリラ局長さんに教えてもらったんだって。

雪のお庭でアジの干物をかじっていると、

｢お、万事屋のワン公じゃねェか。｣

と声がした。

あんまり好きじゃない人の声だった。

たぶん[鬼のひと]だ。

でもこのまま知らん顔したり、嫌な顔をしたりすればすごく怒られるに違いない。

だから僕は出来るだけかわいいお顔をして振り向いた。

｢ちょうどいいところに出くわしたな。

ちょっとお前、背中乗せろ。雪でパトカー出せねェんだよ。｣

やっぱりこの人だった。

[鬼のひと]。

僕は仕方無くタエオを背中から降ろし、代わりに[鬼のひと]を乗せて立ち上がった。

｢東急ハンズ行くぞ。｣

[鬼のひと]は門の外を指差した。

ノロノロと歩きながらタエオの方を振り向くと、僕の食べ掛けの干物を食べ終え、｢ごちそうさま｣をしていた。

・―・―・―・―・―・

背中の[鬼のひと]に言われるがまま進んで行くと、【東急ハンズかぶき町店】に到着した。

僕は犬だからお外でお留守番だよね。

そう思って玄関の横に座ったら、[鬼のひと]が僕の首輪を引っ張った。

｢何ボサッとしてんだよ。んなとこいたら寒いだろうが。

ホラ、行くぞ。｣

[鬼のひと]は僕をお店の中に連れて入ってくれた。

お店の人から注意されたけど、刀に手を掛けたら見逃してくれた。

[鬼のひと]は[鬼のひと]じゃないのかもしれない…。

・―・―・―・―・―・

最初に立ち寄ったのはカー用品コーナーだった。

｢…っとに、何でオレがこんなモン…

局長命令だから仕方無いけど…｣

ブツブツ言いながら[鬼のひと]は、何かを探していた。

しばらく物色して、

｢よし、これに決めた！｣

と言って手に取ったのは、『妊婦さんが乗ってます』の吸盤付きプレートだった。赤い首輪を着けた白い犬の親子の絵が描いてある。

｢犬は多産で縁起が良いからな。

これなら近藤さんも納得するだろう。｣

いつもしかめっ面の[鬼のひと]が、一瞬フフッて笑った。

｢明日からパトカーにコレ付けて走るかんな。

お前、頼んだぞ。｣

そう言って犬のプレートをカゴに入れた。

そっか。あの犬は僕なのか。

・―・―・―・―・―・

次は家電製品コーナーに来た。

｢クソッ！何だよ、どいつもこいつも。

オレの楽しみまで奪いやがって…｣

また[鬼のひと]はブツブツ言いながら品物を選んでいる。

｢タバコは煙を眺めてナンボだろうが。っとに分かってねェな…局長命令だから仕方無ェけど。

…うん、これがお手頃価格でいいだろう。

すんませーん、コレ下さーい。｣

[鬼のひと]は店員さんを呼んで、空気清浄器を買った。

｢『妊婦にやさしい環境を作れ』ってか。

まったく近藤さんの妊婦贔屓にも困ったもんだ。｣

お財布を開きながら、また[鬼のひと]はフフッて笑った。

やっぱり[鬼のひと]は[鬼のひと]じゃないのかもしれない。

｢よし、頼まれたお使いも済んだし…

定春、飯食いに行くぞ！

おりこうにしてたご褒美だ。

【スペシャル土方丼】、腹一杯食え!!｣

…やっぱり[鬼のひと]だ。

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