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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[83]１月１日(華蓮)

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夕方、松平長官宅で行われた新年会から帰宅すると、テーブルに一枚のメモが置いてあった。

『キャプテン・カツーラんちの新年会に行って来ます

銀時』

神楽ちゃんは松平宅から出た総悟君と出掛けた。

新八君はお通ちゃんの新年ライブツアーで三日間帰らない。

つまり今夜は新年早々一人ぼっちって訳か…。

｢アンッッ！｣

あぁ、そうか。定春はいたんだ。

｢ごめんごめん。

そうよね。定春も一緒にお留守番しようね。｣

喉の辺りを撫でてやると、クリスマスに買い換えたばかりの赤い首輪の鈴がチリンと鳴った。

｢さて、お夕飯にしようか…｣

と立ち上がると、玄関のチャイムが鳴った。

もう日も暮れたというのに、誰だろう。

引き戸を開けると、そこには真っ白い髪の、か細い女性が立っていた。

｢あの、【万事屋銀ちゃん】というのはこちらですよね。｣

どうやら万事屋のお客様らしい。

正月の、しかもこんな時間にやって来るとは非常識な人だ。

しかしこの寒い中せっかく来て下さったお客様だ。

粗末に扱ってはバチが当たる。

｢まぁここでは何ですので、お上がり下さい。｣

私はスリッパを出し、リビングへお通しした。

・―・―・―・―・―・

部屋に入り、明るい場所で改めて彼女を見ると、髪は確かに真っ白だが、顔はそんなに老けてはいなかった。

見たところ５０代半ばといったところだろうか。

｢どういった御依頼でしょうか？｣

ソファーに腰掛けた女性にお茶を出し、お尋ねした。

すると彼女は一口お茶をすすり、

｢銀時…

坂田銀時さんにお会いしたくて…。｣

と優しい目で微笑んだ。

｢残念ですが今日は出掛けておりまして、おそらく明日の朝にならなければ帰宅しません。

私で良ければ御用件をお伺いしますが？｣

すると彼女はそのまま、じっと私を見つめた。

あれ？何だろう、この感じ。

意味もなく見つめられていても、ちっとも嫌じゃない。

それどころか初対面にも関わらず、何故だか親しみや懐かしさすら覚える。

おかしいなァ？どこかでお会いした事があるのかな。

しばらく静かにしていた彼女だったが、首を傾げてまた微笑み、言った。

｢あなた、お腹に赤ちゃんがいるのね。｣

｢えっ…何故それを？｣

彼女はソファーから立ち上がり、私の元へ歩み寄ると、しゃがみ込んでお腹を擦り始めた。

｢あなた、さっきからずっとお腹に手を当てていましたよ。

無意識なんでしょうけどね。｣

クスクスと笑いながら撫でるその手は、氷のように冷たかった。

外を歩いて来て冷えたのだろうか。

｢私も、妊娠中はそうだったわ。

もう３０年も前の事だけれど。｣

まだ3ヶ月目に入ったばかりで大きくもないお腹を、彼女はいとおしそうに撫で続ける。

｢息子を産んでまだ間もない頃、私の夫は戰に出て行ったの。

『俺は国を、そしてお前逹家族を護る』

ってね。

そう、あの人、攘夷志士だったの。

でもね、結局天人に滅多斬りにされて、帰らぬ人となったわ。

バカよね。本っ当、バカ。｣

彼女はまた立ち上がり、元のソファーに座り直した。

｢その後、私は流行り病にかり、起きる事もままならなくなってしまったの。

まだ乳飲み子だった息子を、病気を抱えた私一人で育てられるか、とても不安だったわ。

でもね、そんなある日、その噂を聞き付けた夫のお友達が、『息子さんを預からせて下さい』って来て下さったの。

その方は塾を経営してらして、毎日沢山の子供逹に攘夷論を説いて聞かせていてね。

『あぁ、この人なら安心して任せられる』って思って、息子を彼に託したの。

そうね、まだ息子が１才ちょっとだったかしら。

『病が治り次第お迎えに行きますから』って約束してね。

でもね…｣

彼女は昔話をしながら、天井を仰ぎ見た。

｢でも、私と息子はそれっきり、一緒に住む事が出来なくなってしまったの…。｣

すっかり冷めてしまった湯飲みの中身を悲しそうに眺めていた彼女だったが、うっすら浮かべた涙をスッと袖口で拭き、立ち上がった。

｢ごめんなさいね。

これから赤ちゃんと明るい未来に向かおうという人に、こんな話を聞かせちゃって。

今日はこれで失礼します。

銀時さんには、『また会いに来ます』とお伝え下さい。

それでは…。｣

彼女は足早に玄関から出て行った。

テーブルの湯飲みを片付けようとリビングに戻ると、先程までお客様の座っていたソファーに、一枚の写真が落ちていた。

その写真には、オムツ一丁で布団に転がる赤ちゃんが写っていた。

彼女と同じ銀髪の、死んだ魚のような目をした男の子…。

・―・―・―・―・―・

｢ん？どうした、銀時。

今日は酒が進まないじゃないか。

具合でも悪いのか。｣

｢うっせーな、ヅラのくせに。｣

｢ヅラじゃない、桂だ。｣

｢どっちでもいーんだよ、コノヤロー。｣

｢何かあったのか？｣

｢ん…いや、な。

今日、母ちゃんの命日なんだわ。

つっても母ちゃんの顔なんて覚えてねェんだけどさ。

でも毎年正月には初詣とセットで墓参りにも行ってたんだけど、今年はうっかり行くの忘れてたんだよな…。

それがちょっと気になっててよォ。

母ちゃん、イジけてねェかな～…って。｣

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