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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[78]12月19日(新八)

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今日のお客さんは、色白でおとなしそうな若い女性だった。

小柄だけれどもお肉の付くところには付いているという、いわゆる[トランジスタグラマー]というヤツだ。

｢雅美です。｣

彼女はゆっくりと頭を下げてソファーに座り、僕らの前に封筒を差し出した。

｢この手紙を代筆していただきたいのです。

私、字があまり得意な方ではないので…。

そしてそれを相手に渡してきていただけないでしょうか。｣

テーブルに置かれたそれは、男性宛てになっていた。

｢なるほど。

じゃあ書き直しする前に、ちょいと先に内容を読ませてもらうよ。｣

銀さんは花柄の封筒から、同柄の便箋を取り出した。

両横から僕と神楽ちゃんが覗き込む。

『清一郎様

早いもので、あなたとお付き合いして半年が経ちました。

あなたには家族があると知りながらも、愛するが故にこの関係を続けて参りました。

これまであなたの｢妻と別れる｣という言葉を信じて、一人で過ごす週末を懸命に耐えて参りました。

だからお願いです。ご褒美に、あなたとのクリスマス･イブを私に下さい。

　　　　　　雅美』

これって…不倫だよね。

こんなベビーフェイスで道ならぬ恋をしているとは、夢にも思わなかった。

これを清書して、不倫相手に届けるのか。

社会の倫理には反しているけれど、これも万事屋の仕事なんだよね。

気は重いが、黙って引き受るしかないのかな。

僕が思わず溜め息を漏らすと、便箋をたたみながら銀さんが言った。

｢ねぇ、俺は経験ないから知らないんだけどさー、

不倫って気持ちイイの？｣

思わぬ質問に、雅美さんは戸惑っている。

無理もない。

こんな質問されて｢気持ちイイです｣と言える人なんてそうそういないだろうから。

赤い顔をしてうつ向く雅美さんを前に、銀さんは尚も続けた。

｢ま、カラダは気持ちイイんだろうな。

だって、[嫁さん]というトレーナーがいて、その後にアンタで腕試しするんだから、そりゃーそれなりのテクもお持ちだろーからねェ。

雅美ちゃんと同年代の青臭いオトコノコと違って、女の悦ぶツボを突きまくるしなァ。｣

雅美さんは目を反らし、押し黙っている。

ここにいるのが辛そうに唇を噛み締めて、膝の上で拳を握りしめている。

｢でも、ココロまで気持ちイイかィ？｣

居心地悪そうに座っていた彼女だったがハッと我に還り、銀さんの方を向いた。

｢俺ァカラダとココロ、両方気持ち良くないとヤダな。

そりゃあアンタと違って、うちの嫁さんは乳真っ平らだよ。

だけど、俺ァ毎日十分満ち足りてるよ。

何でかっつったら、

ココロまで気持ちイイからさ。｣

銀さんはそれだけ言うと、寝室に入ってしまった。

ピシャッという襖の閉じた音の後、リビングはシーンと静まり返った。

言いたいだけ言ってこの場を丸投げにされても、僕達どうしようもないよ～！

神楽ちゃんと顔を見合わせて困っていると、雅美さんが顔をあげ、ソファーから立ち上がった。

｢もう結構です。

このお話は無かった事にして下さい。｣

そう言って、彼女は手紙を便箋ごとビリビリと引き裂いてしまった。

しかしその顔は涙に暮れながらも、晴れ晴れとした表情のように見えた。

・―・―・―・―・―・

｢銀さん、雅美さん帰りましたよ。｣

寝室の襖をそっと開いて声を掛けると、腕を枕に寝転んでいた銀さんは起き上がって、伸びをして言った。

｢新八、お前見たか？｣

｢え？見たって、何をですか？｣

銀さんはお腹を掻きながらリビングへ歩いて出た。

｢手首の傷だよ、雅美ちゃんの。｣

傷？

｢手首に無数の傷があった。リストカットってヤツだな。

しかも比較的新しいよ、ありゃ。｣

よく見ていたもんだな。

手紙やナイスなバディに目を奪われてた僕は、手首なんか全く気にしていなかったよ。

｢ありゃ本当は代筆や飛脚役を頼みに来たんじゃないよ。

不倫は良くないと分かっているけど本気で惚れちまったばっかりに抜け出せなくなった自分を、誰かに止めてもらいたかったんだな、きっと。

つまり誰かに叱られて踏ん切りつけたかったんじゃねェの？

本当にあの手紙出そうと思うなら、汚い字はパソコンで打ち直しゃいいし、相手には直接渡すかポストに入れときゃいいわけだからな。｣

銀さんは自分のデスクに腰掛け、今一度伸びをした。

｢ま、何にしろ面倒臭ェ恋愛はしないに限るよ。

な、新八、神楽。｣

万事屋は[何でも引き受けます]がモットーの店だけど、人生のリセットまでこなしてしまうなんて知らなかった。

また銀さんの懐の深さを知ったような気がした。

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