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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[74]11月30日(新八)

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｢銀さん、あの…

なんか知らないおばあちゃんが僕にくっ付いて来て、ずっと離れてくれないんですけど…。｣

・―・―・―・―・―・

うちを出てすぐの神社に、このおばあちゃんはいた。

寂しそうにうつ向いてしゃがみ込んでいたが、僕を見付けた瞬間から目がキラキラと輝き始め、こちらに走って来たかと思うと、そのまま倒れ込むかのように抱き着いて来た。

それからずっと僕の腕を掴んで離さなくなった。

｢ふ～ん。

ま、基本お前は優しい男の子だから、このババァぐらいならちょっとだけストライクゾーン広げてあげれば受け止められるんじゃね？｣

｢なっ…銀さん、いくら僕でもおばあちゃんはナイですよ！

嫌ですよ、こんなシワくちゃな…｣

隣を見ると、おばあちゃんは涙を溜めた憂いの目で僕を見ていた。

な…何なんだ!?

どうして僕にしつこく付きまとう!?

どうして僕をそんな目で見る!?

こんなかよわそうな老人をこの寒空の中に放っぽりだす訳にはいかないし…困ったなぁ…。

結局｢迷子はとりあえず警察だろう｣ということで、真選組へ連れて行った。

華蓮さんを呼び出してもらい玄関で待っていると、奥から早足でやって来た。

｢あら新八君、どうしたの？

まぁ、中山のおばあちゃまも一緒じゃない。｣

どうやら華蓮さんはおばあちゃんの存在を知っていたようだ。

それなら話しは早い。

僕と華蓮さんはおばあちゃんを連れて中山家に向かった。

道中、おばあちゃんには認知症がある事、徘徊してはよく真選組の人がうちまで送っている事などを聞いた。

中山家に着いた。

長い竹塀の奥には、立派な日本家屋と庭園が広がっていた。

間違いなくお金持ちだ。

華蓮さんが玄関の戸を開けると、家族の方が出て来られた。

息子さんだろうか。

すると、それまで黙っていたおばあちゃんが、突然息子さんに向かって僕を差し出して言った。

｢タカノリ、お父さんが戦から戻って来たんだよ！｣

・―・―・―・―・―・

｢これが父です。｣

奥の間に通され、息子さんが指差す方向を見ると、仏壇に写真が飾ってあった。

｢あっ…！あれは…｣

華蓮さんも僕も驚いた。

写真の中の人物は、

眼鏡をかけた、僕そっくりの男性だったのだ。

｢父は戦に駆り出されて、戦死しました。

しかし遺体も遺品も帰って来なかった為、母は父が『生きている』と信じ込んだまま年を取り、認知症になってしまって…

そこへたまたま父にそっくりのあなたが現れて、父が生きて帰って来たと勘違いしたのでしょう。｣

そうだったのか。

僕を御主人と思い込んでいたのか。

そうとも知らず、僕はおばあちゃんを邪魔者扱いしてしまった。

可哀想な事をしたな。ごめんなさい、おばあちゃん。

僕を御主人だと信じ込み、いつまでも腕にしがみついて離れない彼女がだんだんと可愛く思え、愛しくさえ感じた。

｢実は、明日から母は老人ホームへ入所する事になっているのです。｣

老人ホーム？

｢認知症も進み、徘徊も日に日にひどくなっており、私達の手に負えなくなって来たのです。｣

そんな…

おばあちゃんは長年待ち続けた[御主人]にやっと会えたというのに、もう明日お別れなんて…

おばあちゃんは僕の腕をギュッと固く握りしめ、顔を埋めた。

｢おばあちゃん…｣

その無言の拳から、[御主人]への愛の深さが伝わって来た。

彼女の為に、かりそめの[旦那]として、何か出来ないだろうか。

気が付くと、僕は畳に頭を擦り付け、土下座していた。

｢大変差し出がましい申し出とは百も承知ですが、おばあちゃんの為に…

いや、[奥さん]の為に、僕、何かしてあげたいんです。

今日一日、せめて夜まで二人で居させてもらえませんでしょうか!?

せっかく出逢えたんです。素敵な思い出をプレゼントしてあげたいんです。

どうか、どうか…｣

他から見れば、僕は偽善者なのかもしれない。

知りもしないおばあちゃんの思い込みに付き合い、喜ばせようとしている。

でもそんな他人からの評価など知ったこっちゃない。

僕の[奥さん]に対する今の気持ちは、純然たる物である自信があるから。

・―・―・―・―・―・

息子さんから許可をもらい、僕は一日[奥さん]と時間を共にした。

二人で結婚式を挙げた神社

二人でよく行ったお団子屋さん

二人で着物を買った呉服屋

思い出の場所を巡る度、[奥さん]は楽しそうにはしゃいだ。

きっと御主人は、こんなかわいい女性を残して天に召した事を悔やんでいるに違いない。

また彼女ももっともっと[御主人]との何気ない時間を楽しみたかった事だろう。

そう思うと、切なさに胸が締め付けられる。

夜になった。

[奥さん]を家まで連れて行くと、当然僕を中に招き入れようとした。

しかし僕は、心を鬼にして断った。

[奥さん]の目を見れなかった。

悲しい目をしている事は分かっていたから。

僕は彼女に言った。

｢これから僕はまた天に戻らなければならない。

君が天寿を全うして僕の元へ来た時、二人で永遠に幸せに暮らせるよう、万全の準備を整えておくよ。

そしたら、今度は絶対に君を悲しませないから。

君を絶対に離さないから。

だから君は元気に生きて。｣

静かに頭を下げ、僕は彼女を見る事なく玄関を出た。

後ろ手で戸を締めると、中から声がした。

｢ありがとう、あなた！

待っててね。

私、一生懸命生きる。

そうしたら天国でまた私と一緒になってね！

私を幸せにしてね!!｣

冬の澄んだ月が、僕の頬を伝う温かい物を照らし、輝かせた。

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