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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[62]９月２８日(土方)

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夢を見た。

庭で竹刀を振っていると、３人の子供が駆け寄り、俺の脚にまとわりつく。

俺はその中の一番小さな子供を抱き上げる。

女の子。

誰かによく似たその顔を俺の頬に擦り寄せ、

｢おとうしゃん。｣

確かにそう呼んだ。

すると部屋の奥から縁側に向かって歩いて来る者がある。

女。

｢コラコラ、お父さんの素振りの邪魔をしては駄目でしょ。｣

縁側に置かれた盆の上には、お茶と共に真っ赤な激辛せんべい。

｢さぁ、みんなお茶にしましょう。｣

そう言って顔を上げた女は

ミツバ

｢ミツバ！｣

名を呼ぶと、その温かく鮮やかな夢は儚くも消え失せた。

・―・―・―・―・―・

局長室の縁側で、四役が隠居のジジィ・ババァのようにお茶をすすっている。

空にはまだ夏の名残の入道雲がそびえ立っている。

昨夜の夢があまりに鮮明で現実味を帯びすぎており、まだ俺の心はあの庭に置き去りのままだ。

｢あのさ…

みんな、夢とかってある？｣

ふいに近藤さんが口を開いた。

夢…

もしかしたら昨夜の夢は、俺の潜在的な願望だったのかもしれない。

だとすれば、

【ミツバと幸せな家庭を築く】

それが俺の将来の夢だったという事か。

まぁ、今となってはどう転んだって叶わぬ夢だが…。

｢俺はやっぱりお妙さんと結婚して、

[恒道館]を復興させる事かなぁ。｣

近藤さんは空を遠く眺め、微笑んだ。

｢局長は子供好きだから、沢山欲しいんでしょ。｣

横から華蓮が問う。

｢そうだね。いっぱい欲しい。

でもね、女の子は出来るだけ欲しくないんだ。｣

近藤さんは、膝に丸くなって眠るタエオと金ちゃんを撫でながら続けた。

｢女の子はさ、かわいいけどお嫁に行っちゃうでしょ。

そんなの寂しいよ。

俺、娘に彼氏が出来たらボコボコに殴っちゃうかもしんない。

だから女の子は出来るだけ欲しくない。｣

娘を溺愛するあまり手離そうとしない近藤さんの姿を想像すると、切なくもあるし滑稽でもある。

しかし世の中の父親というものは皆そういうものらしい。

娘がいれば、俺もそうなるのだろうか。

夢の中の庭で抱き上げた女の子の頬の温度が、ふと甦った気がした。

｢でも私はやっぱり、１人は女の子が欲しいかな。｣

お茶うけの羊羮を口にしながら、四役唯一の女が話し始める。

｢だってホラ、かわいいお洋服を着せたり、髪を結ったり…

そういう楽しみがあるじゃないですか、女の子は。｣

この間、市中見廻り中に立ち止まって何かをじっと見つめる華蓮の姿があった。

視線の先には、子供を連れた妊婦の姿があった。

年末の悲劇以来、坂田家にはなかなか子供が授からない。

やはり彼女の今一番の夢は[子供]だろうな。

｢そういえば、うちには年頃の娘がいるけど…

さぁて、どこにお嫁に行くのかなぁ～？

ね、総悟クン！｣

近藤さんと華蓮が総悟を覗き込みニヤニヤと笑いかけると、顔を赤く染めた総悟は近藤さんの膝のタエオを奪い、抱き抱えて走って逃げた。

俺も総悟くらいの年頃には、まだ結婚だの家族だのは考えられなかった。

毎日自分一人を世話するのでいっぱいいっぱいだった。

しかしその頃、俺がもう少し大人であれば、ミツバと俺はあの夢のように庭で子供達と戯れていたのだろうか。

｢おとうしゃん｣

柔らかな頬と声を、また感じたような気がした。

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