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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[60]９月９日(銀時)

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｢わかりました。

その女性の事をお調べすればよろしいのですね。

では後ほど。

御来店、心よりお待ち致しております。｣

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さっきテレビのワイドショーで、メジャーリーグ・タンキースに所属している松木選手の帰国を報じていた。

｢大成するまで帰らない｣と宣言した松木選手は、その言葉通り五年間日本に帰国する事はなかった。

そしてついに今年、タンキース優勝を機にファン待望の凱旋帰国を果たしたのだ。

その松木秀巳が、[万事屋銀ちゃん]に人知れず人探しを依頼してきた。

｢ある女を探して欲しい｣という。

その女の名は

山田華蓮

正直その女の夫である俺は一瞬迷ったが、華蓮を探す男、しかもメジャーリーガーというものに興味が湧き、依頼を承諾した。

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かくして松木氏はやって来た。

玄関の外にはいかついＳＰ二人が張っているという物々しさだ。

これが一流メジャーリーガーか。

自分の故国(くに)に帰ったというのに一人歩きも出来ないとは悲しいもんだな、有名人とは。

松木は事務所のソファーに腰掛け、その長く筋肉質な脚を組んだ。

背もたれにもたれかかったその姿は、威風堂々と俺を見下ろしている。

｢新八、神楽。

お前ら外に出とけ。｣

俺はコイツの怪しい笑みの真意を聞き出したくなり、二人を追い出した。

二人が玄関を出たのを確認し、松木から口火を切った。

｢彼女が元いた病院に行ってみました。

でも彼女は既に退職していましてね…。

現在の居所を聞いたところ、この[万事屋銀ちゃん]で聞けばわかると言われました。｣

松木はニヤリと上目遣いに俺を見た。

｢…聞きたいんでしょ。

僕と華蓮さんの関係。｣

いや、分かっている。

おそらく昔の男だろう。

しかしそれをハッキリ聞いてしまうのは、夫の俺にとって気持ちの良いものではない。

出来る事なら聞かないでおきたい。

しかしそれを知ってか知らずか、奴は続けた。

｢華蓮さんとは、僕がアメリカに渡る前にお付き合いをしていました。

もちろん僕は彼女との結婚を意識していたし、彼女もその願望はありました。

しかし僕が『メジャーに行くから付いて来てくれないか』とプロポーズをした時、彼女は色良い返事はくれませんでした。

その理由は…｣

松木は脚をほどき、前のめりに俺を覗き込んだ。

｢『将来が不確かな男とは一緒になれない。』

…ってね。｣

俺の時と一緒だ。

[白夜叉]と呼ばれ、攘夷志士として戰の日々を送っていた頃の俺も、一度は華蓮に別れを告げられた。

『将来が不確かな男とは一緒になれない。』

と。

アイツはそれほどまでに確実な幸せを欲している、悲しい女なのだ。

華蓮にもう少し先見の明というものがあれば、メジャーリーガーの嫁として今よりもっと幸せに暮らしていたのかもしれないな。

松木は相変わらず意味ありげな含み笑顔で俺を眺めている。

｢彼女…今どうしてます？｣

コイツ、もしや俺が華蓮の夫である事を分かって言っているのか…？

だとすれば自分に相当な自信がなければここに来る事など出来ないし、訊ねることも出来ないだろう。

さすが天下のメジャーリーガーというべきか。

それならば夫としては黙っておく事は出来ない。

えてしてメスとは、本能的に自信たっぷりのオスを追いかけてしまう生き物だから。

｢…幸せにしてますよ、この江戸の空の下で。

旦那は彼女の事をメチャクチャ大事にしてるし、家族も彼女に絶大なる信頼を寄せています。

おそらく彼女は、今以上のオイシイ話…例えばメジャーリーガーとの再会などが舞い込んだとしても傾く事はないでしょう。

…つーか華蓮がせっかく掴んだささやかな幸せを邪魔してくれるな！

何しに来たんだ、テメーは!!｣

我慢出来なかった。

大人げないと知りながら、嫁さんの元彼に罵倒する俺。

それをバカにしたような目でジッと見つめる元彼。

どう考えても負けは俺だ。

収拾のつかなくなったこの空気を打破したのは、松木だった。

｢そうですか。

どんな形であれ、幸せになったのならそれで安心しました。

では華蓮さんと旦那様にお伝え下さい。｣

松木はソファーから立ち上がり、上着を羽織りながら言った。

｢僕は今でも華蓮を愛しています。

だけど御主人や御家族の愛のサイズには程遠いと気付きました。

これでやっと想いを吹っ切る事が出来た。

ありがとう。お幸せに…。｣

彼は夕日の差し込む部屋を後にした。

愛した女の幸せを願い、身を引く。

奴は男だな。

それも俺なんかよりよっぽど大人の男だ。

松木の意を酌み、俺は今まで以上に華蓮を愛そうと決めた。

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