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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[60]９月２７日

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｢山田隊長、大変です。またやられました！

今度は七人分いっぺんに!!｣

また若い女子隊士達が朝から騒いでいる。

最近江戸に下着泥棒が出没するという噂があり、被害届もいくつか出ているのだが、ついにうちの女子寮にまでやって来るようになったようだ。

今まで特に手掛かりも掴めず泳がせたままにしていたので、そろそろ本格的に捜査をせねばならんだろう。
局長に相談に行ってみるか。

｢三日連続で女子寮が狙われた～!?

しかも今日にいたっては七人分!!

そりゃいかんなぁ。｣

修練直後の局長は、汗まみれの上半身をタオルで拭いながら困惑顔で話す。

｢以前もフンドシ仮面ってのが出没して、俺らが捜査したんだが…

やっぱ盗まれたのがデリケートなモンだけに、ちょっと照れ臭くてなぁ。

出来れば今回の件は女子隊で解決してもらいたいんだが…｣

それはそうだな。

男子隊士が出来ない仕事の穴を埋めるのも、私達女子隊士の立派な存在理由だ。

｢で、今分かっている情報は？｣

ワイシャツに袖を通しながら局長が聞く。

｢盗まれる対象は種類問わず下着全般、主に学生から二十代前半の若い女性が被害にあっている模様です。｣

｢なるほど…

じゃあ華蓮さんは犯人の眼中に無いわけだから、パンツ盗まれる心配はないな。｣

あ…そういえば、女子隊士みんな被害者なのに、私だけ盗られてない…

二十代後半だからか…

うつ向いて黙っている私を見て、自分の口走った言葉の重大さに気付いた局長は、

｢いや、その…今夜…そう、今夜あたり来るかもよ、下着ドロ。

やっぱ女子隊長ともなると大トリなんだよ、きっと。

気を付けなくちゃね、下着ドロ！

あははははは…｣

と慌ててフォローしてくれるが、全然嬉しくない。

・―・―・―・―・―・

｢隊長、ここはやはり真選組自らがオトリになって、犯人を逮捕するべきなのではないでしょうか？｣

女子隊のブレイン・京子が提言する。

｢今からみんなの勝負下着を集めて、その中から特にグレードの高いものを厳選し、ベランダに吊るしておきましょう。

その陰で私達が張っておく…どうですか？｣

どうって…

正直自分だけ盗られてない事がショックで、それどころではない。

だから今回は京子の作戦に乗っかる事にしよう。

かくして女子隊士全員の勝負下着が集められた。

わあぁ、最近の娘(こ)ってこんなん履くの!?

さすがに勝負下着だけあってヒモパン率とフリル･レース･リボン率高いなぁ。

カラーバリエーションも豊富ね。

もぉ、おばちゃんビックリだわ。

｢さぁ、隊長も出して下さい。｣

え～、こんなかわいい下着の中に出せってか？

おばちゃんのパンツも出せってか？

仕方ない。
隊長が先頭きって出すべきだろうからな、ここは。

私はしぶしぶポケットから総黒レースのＴバックヒモパンを取り出した。

｢…!!…｣

女子隊士達は、まだ青い自分達には履きこなせないであろうアダルティなパンツを前に、驚愕している。

｢さすが隊長…オトナの女性の色香たっぷりです…。

これはもう決まりですね。満場一致で隊長のを使用する事に決定いたしました。｣

あ…こんなんでいいの？

選ばれて嬉しいっちゃ嬉しいけど…

でも盗りに来てもらえなかったらどうしよう…。

プライドズタズタになる前に切腹しようかな。

・―・―・―・―・―・

日もとっぷり暮れた午後１１時。

女子隊士達は二階にある私の部屋のベランダに集まった。

皆は下着泥棒を捕まえようとドキドキして待ち構えている。

私は｢盗まれますように｣とただひたすら祈っている。

すると、裏庭の草陰からゴソゴソと音がした。

ノラ猫というサイズの音ではない。

明らかに人間だ。

皆が真剣な顔になり、身構える。

私は盗ってもらえる嬉しさに、顔がほころぶ。

草陰から人が出て来るのが見えた。

影は寮の壁についているパイプを掴んでよじ登り、二階の私の部屋目掛けて忍び込んで来る。

いよいよだ。

影がついに私のパンツに手を出した。

すると目にも止まらぬ速さで京子が手錠を掛けた。

半年前までかぶき町を怯えながら見廻っていた彼女が、皆の指揮を執り、率先して犯人逮捕に踏み切っている。

よくぞここまで成長してくれた、我が娘よ。

｢この下着泥棒!!

窃盗罪及び家宅侵入罪で逮捕す…

…あれ？｣

勇ましくお縄頂戴した京子が、突然手を緩めた。

どうしたのかと皆で犯人を覗き込むと…

｢!?!?!?!?

きゃああぁ～っっっ!!
何やってんですか、局長!!!!!｣

そこには泣きそうな顔で手錠に繋がれた局長がいた。

・―・―・―・―・―・

局長に手錠を掛けたまま、副長室へ連行した。

土方さんは驚くやら呆れるやらで動揺を隠せないようだ。

｢ち…違う、誤解なんだ!!

信じておくれよぅ～トシ、華蓮さ～ん!!｣

局長はオイオイ泣きながら土方さんにすがり付くが、

｢えぇい、寄るな変態!!｣

と振り払った。

｢訳があるんだ、な、聞いてくれよぅ～｣

尚も土方さんにすがり付くも今度は刀を突き付けられ、ようやくおとなしくなった。

｢正直に言うよ。

女子隊士の中で、華蓮さんだけが下着を盗られてないって聞いて、なんか俺…かわいそうになっちゃったんだよね。

だからせめて一度くらいは盗まれる気持ちを味わわせてあげたいな～…って…

それで下着泥棒に成り済まして…｣

ええぇ～～同情!?
同情なのかァァァァァ!?

｢適当な嘘つくんじゃねーよ!!｣

土方さんが今にも殴りかからんとしたその時だった。

｢隊長！

真犯人を捕獲しました!!

あれから別の部屋のベランダで張っていたら、男が姿を現しました。｣

と、京子が血相を変えて入って来た。

無罪を証明出来た局長は、ポロポロと涙を流していた。

私はその横で｢犯人、何で私の部屋に出ないんだよ｣と悲しくなってポロポロと涙を流していた。

土方さんは自分の大将が変態ではないと分かってポロポロと涙を流していた。

｢…あれ？

局長、その手に持ってんの何だ？｣

土方さんは局長の手の中の物を取り上げ、広げた。

私の総黒レースＴバックヒモパンが、窓からの夜風にはためいた…。

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