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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[59]９月２２日

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午後の市中見廻りに出掛ける。

まだまだ残暑は厳しく、汗拭きタオルが手放せない。

｢あ…隊長、アレ!!｣

同じ班の京子が、建物の陰でたむろしている女の子達を指差した。

極端に短いスカートに派手なメイクで、明らかに未成年である彼女らは、小慣れた手つきでタバコを燻らせていた。

私達は彼女らのいる方へ近づいて行く。

｢お～い、夏休みに覚えたタバコの復習ですか？コラ。｣

私にしては優しい声で言葉をかけると、女の子達は目を見開いて驚き、蜘蛛の子散らすように走って逃げて行った。

一人を除いては…。

真っ直ぐな目をしたその娘は、私をジッと見つめたままそこから動こうとしなかった。

｢あなた未成年よね。
まだダメでしょ、タバコは。｣

くわえていたタバコを摘み取り、足元で揉み消した。

｢あなたくらいの年頃なら、好きな人もいるでしょ。
彼の為に健康な肺と血液でいて、健康な赤ちゃんを産んであげたいって思わないの？｣

到底効くとは思えないが、一応お説教してみる。

すると彼女は私から目を逸らさずはっきりとした口調で、

｢…その好きな人が私を必要としていなくても？｣

と言った。

最近失恋でもしたんだろうか。

美しいその少女は、濃いメイクだがまだあどけなさの残る顔を背ける事なく続ける。

｢私を放ったらかして、遠くへ行ったとしても？

それでも私はあの人の為に清く生きていなくちゃいけないの…？｣

先程まで濁っていたその瞳が澄みきった美しさを取り戻したかと思うと、涙がポタポタと滴り落ちた。

｢遠くって…

北海道？沖縄？それともどこかよその星？｣

私は強気な彼女の涙に心配になり、少し話を聞いてやる事にした。

しかし彼女から返って来たのは意外な答えだった。

｢…真選組…。｣

驚く私達が次の言葉を発しようとしたその時だった。

｢あっ、コイツこんな所にいやがった!

店のもん返せ、このヤロー!!｣

怒号をあげながら走ってきたオジサンは、彼女の腕を掴んだ。

｢あっ、真選組の方々がいらっしゃるんなら丁度いいや。

コイツを取っ捕まえてやって下さいな。

いつもうちの店で万引きしてる、とんでもねぇガキなんですよ。｣

・―・―・―・―・―・

屯所に連れ帰り、事情聴取する事にした。

彼女の名は田辺メグミ。
十七歳。
盗んだ物は便箋･封筒のｾｯﾄとﾎﾞｰﾙﾍﾟﾝだった。

｢住所は？｣

これで五回目の質問だ。
名前と年齢までは答えたが、住所だけはどうしても言わない。

親に連絡されたくない気持ちは分かるが、これを教えてくれなければ話しが先に進まない。

仕方無く住所は後回しにし、彼女を置いて真選組に入隊してしまったという彼の事を聞く事にした。

するとそれまで不貞腐れていた彼女が、急に泣きそうな切ない表情に変わった。

｢…私が十六歳になったら迎えに来てくれるって…

立派になってお嫁さんに貰ってくれるって…

そう約束して出て行ったのに…

手紙を出してもなしのつぶて…

私、待ってたのに。
ずっと待ってたのに!!｣

彼女は机に突っ伏して泣きじゃくり出した。

派手な服やメイクのこの娘にも、一端の純情があったのだ。

私も彼女と同じく机に頬をつけて、話しかける。

｢で、その彼は一体誰なの？｣

彼女は溶けたマスカラを拭いながら言った。

｢さが君。

山崎退。｣

・―・―・―・―・―・

彼女を京子に任せ、私は山崎に話しに行った。

女子隊長室に呼び出し、今度は山崎を事情聴取だ。

彼女が万引きをし、今取り調べを受けている事実を話すと、山崎は非常に驚いていた。

｢アンタ、何で出来もしない約束なんかして女の子傷付けんのよ。

約束守れなかったなら守れなかったで、十六歳になった時点で謝りゃ良かったのよ。

彼女、アンタ待ち続けて、ずっと手紙送ってたって言うじゃない。

何で返事の1つも書いてやんないのよ。｣

すると山崎は急に立ち上がり、初めて私に吠えかかった。

｢何言ってんだよ!!

僕は毎回返事書いて送ってたよ!!

『今はまだ無理だけど、必ず迎えに行くから』って、いっつもいっつも書いてたよ!!｣

え？どういう事？

彼女の話と食い違っている。

｢メグミちゃんは返事が来ないって言ってたわよ。｣

それまでの剣幕を落ち着けた山崎が、暫くの沈黙の後呟いた。

｢…師匠だ。｣

師匠？

｢僕からメグミ宛ての手紙だと知って、師匠が捨てているに違いない!!｣

興奮する山崎を座らせ、詳しく聞く事にした。

｢メグミは剣術道場の娘で、僕はその道場に通っていました。

幼い頃からいつも二人で剣の腕を競ってきましたが、いつの頃からか僕達は惹かれ合うようになっていました。

もちろん僕らの付き合いに師匠は大反対で…。

でも僕らは隙を見ては会っていたのです。

しかしそれが師匠にバレて、｢メグミから離れないのなら無理矢理離してやる!!｣と師匠は勝手に真選組に応募し、僕を入隊させました。

でも僕は諦めきれず、彼女に約束したんです。
『メグミが十六歳になって、僕が真選組で一人前になったら迎えに行く』って。

彼女からはしょっちゅう手紙が来ました。

僕も毎回返事を書きました。

でも届いてなかったって事は…｣

誰にも逆らう事なく、いつも従順に仕事をこなす頭の低い青年は、早く一人前になるべく直向きに頑張っていたという事か。

・―・―・―・―・―・

取調室で、二人を引き合わせてやる事にした。

実に二年ぶりの再開だと言う。

少しの間、二人だけで話しをするようすすめた。

｢…メグミ…どうしたの？

以前はそんな格好してなかったじゃないか。｣

｢…｣

｢いつも手紙、ありがとう。

僕はあれのお陰で毎日頑張れたんだよ。

早く一人前になって、メグミを迎えに行…｣

｢嘘!!

返事もくれなかったクセに!!

私なんてもう忘れたクセに!!｣

｢違う!!僕は毎回必ず返事を書いて送っていたよ。

…でもたぶん、君のうちの郵便受けまで届いて、君の手には渡らなかったんだ…。｣

｢…まさかお父様が!?｣

｢たぶん。

でも僕、諦めないから。

真選組に来て、耐え忍ぶ事を覚えたから。

だから、あと少しだけ…

少しだけ僕を信じて待っていて。

服や化粧も、前のメグミに戻ってよ。

必ず君を貰いに行くから。

僕の気持ちはずっと変わらないから。｣

｢…さが君…

絶対、絶対だよ。

絶対私をお嫁さんに貰ってよ。｣

｢うん。

約束するよ。｣

｢さが君、大好き…。｣

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