暴走堕天使エンジェルキャリアー
[53]death-XIII
0号機が現れたのは特務隊司令部地下‐初風鼎のいる部屋だった。山本は乱暴に九十九をコクピットから引きずり出すと、襟首を掴み、水槽の前に連れて行く。
そして九十九の脇腹を乱暴に蹴飛ばし、無理矢理に九十九を目覚めさせる。山本は目を覚ましむせ返る九十九を一瞥すると、水槽の鼎に向き返り口を開く。
「鼎…いよいよこの時がきたよ。煤原君、よく見ていろ。」
そう言うと山本は自身の胸に爪を立てる。するとその爪は胸をえぐり、白く輝く「何か」を掴み出した。
驚きに目を丸くする九十九に、山本が口を開く。
「これはBEASTの白い羽…魂の結晶だ。君も見ただろう?BEASTを倒したときに宙に舞う白い羽を。」
九十九は息を荒くしている。
「この魂の結晶と君の魂があれば、鼎の魂を再生できる…」
恍惚の表情を浮かべる山本に、九十九が息を切らしながら尋ねる。
「何でそんなにシスターに執心する…?」
「‐鼎は…私が愛したたった一人の女性だった…」
「‐」
「ある修道院で私たちは育った。私と鼎は歳は離れていたがいつもともに行動し、やがて私は鼎に惹かれていった。しかし…私は軍属となり、鼎は修道女となり、離れ離れになった。それから20余年。ニュースで鼎が死んだことを知った。」
「‐」
山本は懐から拳銃を取り出し、銃口を九十九に向ける。
「君には解るまい。最愛の女を、何一つ守れず、ただ死んだとだけ聞かされた私の苦しみを!悲しみを!痛みを!」
次第に山本の語気が強くなる。
「だから私は、帰教院の老害を利用し、鼎を…鼎を!」
九十九はゆっくりと立ち上がり、よろよろと山本に近付いていく。山本は銃口を九十九から逸らさない。
だが九十九は拳銃にも物怖じせず、左腕を振り上げ、躊躇なく山本を殴りつける。
「守れなかった痛みだ?そんなもん、会おうと思えば会いに来れただろう!守ろうと思えばできたろ!?あんたは一度でもシスターに会いにきたか!?手紙の一つも書いたか!?あんたはそうやって自己憐憫に浸って被害者ぶってるだけだ!挙句シスターのクローンまで…しかも若い頃の姿だと?あんたは現実から眼を背けてるただの臆病者だ!」
「きっ、貴様に何が解る!」
山本は再び銃口を九十九に向ける。だがその腕を九十九に弾かれ、顔面に一撃を喰らう。
「解ってねぇのはあんただ!傍にいた俺たちだって苦しかった!悲しかった!痛かった!」
九十九は檄に合わせ何度も左拳を繰り出す。
「それでも俺たちはそれを受け入れた!あんたみたいに逃げなかった!」
九十九の拳を受け山本は打ち崩れる。九十九は肩を上下させ息を荒くしている。
「私は…それでも私は鼎を…」
山本は涙をを零しながら床に突っ伏している。
突然、室内にけたたましいアラームが響く。
もちろん管制室の小笠原達にも聞こえた。
「なんだこのアラームは?」
「管制棟地下に熱源…敵性反応!?」
「なんだと!?」
「何だよ、一体…」
九十九は辺りを見回す。すると水槽の中の鼎が大きく口を開け、両目を不気味に光らせている。
鼎が水槽のアクリルに手を触れると、その掌を中心に放射状に亀裂が走る。
「危ないっ!」
九十九は咄嗟に山本の襟首を掴み、壁際に滑り込む。するとアクリルの水槽は豪快な音を立てて崩れ落ちた。
そしてアクリルの瓦礫の中から、鼎がゆらりと立ち上がり、辺りを見回す。そして九十九と目が合うと、口を大きく開き咆哮をあげる。
「くっ…!」
九十九は耳を刺す咆哮に両手で耳を塞ぐ。鼎は十数秒ほど叫ぶと、上体を屈め床に四つん這いになり、ゆっくりと九十九のいる方へ這いずってくる。
そこに、小笠原の声が0号機のスピーカーから聞こえた。九十九は上体を屈めながら素早く0号機の足元に滑り込み、非常回線の受話器を取る。
「三佐、何だ、このアラームは?」
「敵性反応だ。だがこちらからはモニター出来ない…そこで何が起きている?」
「敵性反応!?BEAST…あれが?」
「馬鹿な…BEASTは私で最後のはず…」
九十九は鼎に目をやる。鼎は白く輝くオーブ‐BEASTの魂を手に取り、ゆっくりと口に含む。
すると鼎の身体が白く輝き、その躯体は大きく膨らみ、背中から白い翼が生え出す。そして鼎は咆哮をあげ、羽ばたき、部屋から姿を消した。
「三佐!敵性反応はどこいった!?」
「ちょっと待て…特務隊本部直上、我々の真上だ。」
「真上だな!!」
そう言うと九十九は0号機のコクピットに乗り込む。
「なんだこれ…コンソールがガブリエルとまるで違う…」
九十九はコンソールの脇からキーボードを取り出すと、凄まじい早さでキーを叩く。
「駆動経路伝達グリーン、慣性制御グリーン、神経伝達、生体インターフェイス変更、パーソナリティをブラッドパターンS-13に変更…急げ…ターミナルからのバックアップ完了、自立制御オンライン、火器管制オンライン、生体インターフェイス動作良好、通常戦闘モードで再起動…行ける!」
0号機の両目が赤く光り、量子化して地上へ瞬間移動する。そして、鼎‐BEASTの目の前に立ち塞がる。
「13番目の使徒…これが本当に最後のBEASTか…」
九十九は眉間に皺を寄せ、モニターの向こうのBEASTを睨みつける。
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