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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[46]６月４日(長谷川)

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俺が幕府の高官をクビになって３年。

それと同時にハツが実家に帰っちまったから、別居生活も３年か。

時々は連絡も取るけど、互いの生存確認程度の事務的なモン。

もうダメなのかな、俺達…。

[子はかすがい]ってね。せめて子供でもいりゃあ踏みとどまってくれたのかもしんねーけど、結局出来ずじまい。

おまけに俺の再就職も儘ならないと来りゃあ、嫁さん迎えにも行けねぇや。

これだからみんなに言われるんだよな、

【マダオ】(まるでダメなオッサン)

ってさ…。

・―・―・―・―・―・

｢いいよなァ、銀さんは。

キレイで賢い嫁さんがいて。｣

川べりに腰掛けて缶コーヒーをすすりながら、隣に座る銀さんについつい愚痴る。

こうしたって人生がどう転ぶわけでもない事は百も承知だ。

しかし聞いてもらう事で次のステップに多少好転するくらいの効果は得られそうな気がした。

銀さんは１リットルパック入りのイチゴ牛乳を喉を鳴らしながら飲み、一息ついて答えた。

｢そうでもねェぞ。

朝は『起きなさい』を３回言うまでに目ェ覚まさないとヘッドバットだし、ジャンプ買って来いっつったらＶジャンプ買って来ちゃうし。｣

口を尖らせながら呟く様は、さながら子供のそれのようだ。

｢だいたいよォ、俺より嫁さんの方が高給取りってどーよ。

男としては肩身狭いよ、ホント。

『どっちが世帯主だよ』ってハナシさ。｣

銀さんは川に向かって小石を投げ入れた。

長谷川家の婿養子だった俺の状況と少し重なった。

｢でも低収入でも見捨てずにうちにいてくれるんだろ。

イイ女じゃねェか。

うちのハツなんて…｣

そう言いかけてやめた。

一瞬でもハツを悪者にしようとした自分に嫌気がさしたからだ。

｢…ハツは悪くねェよな。

そう、悪いのは俺だ。

婿養子の分際で、義父のコネで入った職場で暴れてクビになったんだから。

ハツの立場を汚したのは紛れもなく俺だ。｣

真っ昼間のお日さんが眩しすぎて空なんか仰げねェや。

俺なんかその下を歩く権利さえ無いんじゃないだろうか。

そう考えると悲しくて、切なくて、苦しくて…

誰かに側にいて欲しくて…

缶コーヒーが手から滑り落ち、うっかりズボンの上にこぼしてしまった。

あぁ、茶色いシミだらけ！

イイ年して情けねェな、俺…。

すると横でイチゴ牛乳を飲み干した銀さんが立ち上がり、尻をはたきながら言った。

｢あーあ、やっぱアンタ【マダオ】だな。

一人じゃ缶コーヒーひとつマトモに飲めやしねェ。

おまけに一人じゃ仕事にもありつけねェ。

嫁さんち行って、頭下げて言えばいいじゃねェか。

『何も出来ないダメな男だけど、お前がいなきゃもっと何も出来ねェから帰って来てくれ』

ってよォ。｣

[銀]の字をあしらったバイクは、俺に砂埃を振り掛けて走り去った。

そうだな。

俺、ハツがいねェと何も出来ねぇ。

缶コーヒーも飲めなけりゃ、再就職活動も力入んねェ。

今すぐ迎えに行こう。

｢俺と一緒に苦労してくれないか｣

ってな。

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