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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[38]６月２５日

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銀時から調査結果が報告された。

彼氏の名前は田中健次郎。
しかしこれは偽名である事が分かった。

さらに医師である事も真っ赤な嘘で、かぶき町界隈では有名な結婚サギ師だったようだ…。

サツキはお嬢様で世間知らず、さらには男性経験ゼロの生娘だった為、簡単に引っ掛かってしまったのだ。

｢これまでにも結婚をエサに、サツキちゃんからかなりの金を引っ張ってるらしい。

デート費用も、『いずれ結婚するんだから財布は一緒だ』とか言いくるめていつもサツキちゃん持ちだし、開業の為の資金だと偽って大金を作らせたりもしているようだぜ。｣

そうか。
やっぱりか。

キナ臭い野郎だとは思ったんだ…。

サツキを、私の大事な娘を助け出してやらなくちゃ！

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今日は給料日。

おそらく男はこの日を手ぐすね引いて待っているはずだ。

今日中になんとか話しをつけてやらないと、さらに被害が拡大する。

｢隊長、御相談がございます。｣

サツキを呼び出そうと屯所内を探していると、彼女の方から出向いて来た。

しっかりしているとはいえ、まだ子供だ。

慎重に話さなければならない問題なので、女子隊長室で向かい合い、落ち着いて座る。

サツキ自ら話し始める。

｢彼の実家の医院が、倒産しました。｣

え？
あの結婚を期に継ぐとかいうアレ！？

じゃあ結婚も破談って事で、別れてくれるつもりかしら…

｢結婚はするんですけど、その医院がある土地を売らなければならないんです。
その為に、建物を壊す作業をするんですが、その費用が…｣

ほーら、来なすった。

やっぱり金だ。

とことん金をせしめようとする太ぇ野郎だ。

｢２０００万円かかるらしいんです。｣

…ってオーイ、サツキぃ！
気付け、この時点で。

なぜたかだか医院程度の建物の解体に２０００万円もかかるんだ！？

そんだけ大きな建物なら倒産しないし、『医院』でなく『病院』のはずだぞ～！！

あまりにパンチの効いた世間知らずっぷりに、我が隊士ながら情けなくなる。

｢私、こんな大金持ってません。
だから、信用している隊長に貸していただけないかと…。｣

さすがの私も、サツキのバカさ加減にキレた。

｢バカも休み休み言いなさい！！

自分の愛する女に大金を引き出させて平気な男と、アンタ本気で結婚するつもり！？

いい加減目を覚ましなさい。｣

私の叱責に驚いたようだが、彼しか見えない彼女は全てにおいてポジティブ思考だ。

｢でも彼、いつも『サツキだけだ』、『お前しか頼れない』って…｣

私は机の引き出しから、銀時の調査報告書を取り出した。

サツキはそれを手にし、目を丸くしてその場に凝固した。

｢よし、サツキ。

今夜彼氏の実家の解体作業に行くよ。

…真選組総動員でね。｣

・―・―・―・―・―・

｢よし、了解した。

許可しよう。｣

局長に全てを話し、真選組総動員でサギ師逮捕に踏み切る事になった。

サツキはまだ放心状態だが、そのうち状況が飲み込めるだろう。

・―・―・―・―・―・

彼氏との待ち合わせは渋谷ハチ公前で夜９時。

それに合わせて私達も出発した。

【アレ】に乗って………。

『渋谷の皆様～、大変御迷惑をお掛け致しております～。

真選組の戦車隊が通りますので、御注意下さ～い。』

葵の御紋が入った真選組戦車、総勢１０台で渋谷の大通りをパレードする。

街行く人々は何事かと立ち止まって見ている。

先頭車両にはもちろん、私とサツキが搭乗している。

｢隊長、渋谷ハチ公前に到着です。｣

運転手の知らせを合図に戦車の上蓋を開け、外を覗く。

｢あ、あのストライプの着物の人です…｣

サツキが指をさす。

なるほど、アイツか。
うちの大事な娘を傷付けたバカ男は。

あまりの仰々しい光景に、男はあっけにとられているようだ。

『毎度お馴染み、真選組でございま～す。

田中医院解体作業に参りましたぁ～♪』

戦車の上に立ち、マイクで男に向かって叫ぶと、男は半泣きで足をもつれさせながら逃げ出そうとした。

｢逃がすな、サツキ。

行け！！｣

サツキは男めがけて網バズーカをぶっ放した。

網は渋谷の宙を舞い、初めて扱うとは思えない正確さで男を捕獲した。

｢自分のゴミは、自分で始末しな。｣

サツキは黙って戦車からゆっくりと降り、彼の元へ歩を進める。

心底愛した男を自らの手でブタ箱に放り込む、その彼女の気持ちはいかばかりか。

網に掛けられてもがいている彼の横に正座し、サツキは静かに手錠を取り出した。

｢…私の心を盗んで行った罪で、逮捕します。｣

涙に濡れた手錠は、男の手首に『ガシャリ』と冷たい音を立て、繋がれた。

[サギ容疑]ではなく[私の心を盗んで行った罪で逮捕]と言わなければ、自分の心が折れてしまいそうなのだろう。

切ない女心がうかがえる。

サツキの幼い恋心と世間知らずが招いた、大捕物だった……。

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