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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[30]４月２２日

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｢明日、自分の一番の勝負着物着て待っててよぅ。迎えに行くからねぇ～。｣

そう松平片栗虎氏から電話があったのは、今朝屯所に出勤した直後だった。

正直迷っていた。

片栗虎氏からの電話は、お見合いの話だった。

将軍様の弟君で、私より二歳上。

今までに仕事で何度かお会いしているので、お優しい素敵な方だという事は知っている。

あちらも私を気に入って下さっているという事だ。

仕事に関しても、女子隊が軌道に乗るまでは辞めなくて良いとおっしゃっているとか…。

つまり結婚する気満々なのだ。

確かに条件としてはこの上無いものだが、しかし私の心は…

屯所の庭には大きな桜の木がある。

今まさに満開の時期を迎え、私の部屋の窓からも花びらが時折舞い込む。

庭に降り、桜の木を見上げながら思いに更ける。

このまま流れに飲まれて確実な幸せを掴むか、

それとも

危ない橋を渡ってでも銀時と添い遂げるか…

桜は答えちゃくれない。

期日は明日。

どうしたら良いのだろう…

・―・―・―・―・―・

しばらく春風に吹かれながら桜を眺めていたが、仕事をするため部屋に戻る。

あれ？なんか顔が痒いな。

ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ…

あ、掻けば掻くほど痒くなって…いや、今度はちょっと痛くなってきた。

ん？顔が熱を持って熱い。

ちょっと鏡で見てみよう。

…………

｢ギャアァァ～～～～！！｣

私の悲鳴が屯所中に響き渡った。

声を聞きつけ、隊士達が私の部屋に駆けつける。

｢何かあったんですか、山田隊長………って、ギャアァァ～～～！！

その顔どうしたんですか！？｣

皆も私と同じリアクションを取った。

急に顔がアンパンマンのようにパンパンに腫れ上がっていたのだ………。

・―・―・―・―・―・

化粧品はいつもと同じのを使ったから、化粧カブレではない。

食品アレルギーも無い。

となると、あと考えられるのは虫か植物…

｢毛虫じゃないかなぁ。｣

顎に手をあてて考えていた山崎君が言った。

一緒に来た女子隊士達もなるほどと頷く。

そのまま山崎君が続けた。

｢毛虫って、触ればもちろんの事、風で毛針が飛んだだけでも人間の皮膚に刺さるらしいですよ。｣

毛虫…
もしかしたらさっき桜の木に毛虫がいて、春風に乗って毛針が飛んで来たのだろうか。

そう彼が説明する間にも顔はどんどん腫れを増し、とうとう瞼が塞がってきた。
もうほとんど前が見えなくなってきている。

これでは一人で病院に行く事も出来ない。

｢誰か私を病院に連れて行って下さい。
お願い致します…。｣

半泣きで土下座する。

もうホント、誰でもいいからこの醜い私を助けて…！！

｢じゃあ俺が連れて行ってあげまさぁ。｣

腫れで瞼が完全に閉じてしまって見えないけど、おそらくこの声は総悟君だ。

ありがとう！！

｢ただし、その顔を写メに撮ってからですがねぃ。｣

うん、間違いない。

そんなサディスティックな趣味を持つのはサド王子、総悟君しかいない。

・―・―・―・―・―・

♪ファンファンファン…

『はいは～い、かぶき町の皆さ～ん。

毛虫に顔を腫らされた真選組女子隊長、山田華蓮が通りますよ～。

どいてくだせぇ～い。』

総悟君の運転するパトカーは回転灯を回し、さらにはマイクで私の宣伝までしながら走る。

｢もうヤメて、頼むから…。｣

助手席から涙目で懇願するが、どうやらこの言い方が逆に彼のＳ魂に火をつけてしまったらしく、さらに過激なマイクパフォーマンスをし始めた。

『ほ～らほらぁ。

顔はアンパンマン、胸はまな板に小豆の女子隊長のお通りだよ～。』

道行く人々の視線が痛い。

どんだけ私をイジメたいんじゃ、このガキは…！！

・―・―・―・―・―・

｢華蓮さん、着きやしたぜぃ。さぁどうぞ。｣

総悟君に手を引かれ、車から降りる。

瞼が開かないので、一体どこの病院に連れて来られたのかさっぱり見当が付かない。

しかしこの言葉を聞いて確信した。ここは…

｢やぁだ、これ本当に華蓮！？
あっははは…

元大江戸小町だなんて誰も信じないわよ、この顔じゃあ！！クククッ…｣

大江戸総合病院だな。

元同僚の声だ。

よりによってここじゃなくても良かったんじゃない！？

いや、ドＳの彼の事だ。わざとに決まってる。
ちくしょう！！

総悟君のペットのように引っ張られながら、診察室に向かう。

ここ最近メディアへの露出も多かったので、私はそこそこ有名人である。

にも関わらず、今日は誰も私を例の女子隊長だとは気付かない様子だ。

有り難くもあり、淋しくもある…。

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