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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[28]３月２８日

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局長命令に従うべく、私は【お母さん】として寺子屋のＰＴＡ行事に強制参加させられるハメになった。

｢プリントに
『ドッヂボールをするので、運動の出来る服装でお越し下さい』
って書いてあったから、ジャージ上下とスニーカーで来る事。

違う服装で来たら切腹!!｣

と局長からお達しがあり、その通りジャージとスニーカーの『めっちゃヤル気!!』的な出で立ちで屯所へ向かった

もうどーにでもなれ。

｢お、お二人揃ってジャージでデートですかぃ？

【大人デートの最新スタイル】って事でホットドッグプレスあたりに掲載されるんじゃあないですかぃ。｣

総悟君のおちょくった発言にも、もう反論する気にすらなれない。

｢いやいや、デートだなんて勘違いしないでくれよぉ。

さて、じゃあ寺子屋のグランドへ行こうか。

なぁ、【お母さん】！｣

さらなる勘違いをされそうな発言、控えて下さい。
【お父さん】…。

・―・―・―・―・―・

既にグランドには沢山の親子連れが集まっていた。

しかしどの父兄も一様に…

ジーンズやチノパン！
めっちゃ軽装!!

私らジャージ！
めっちゃヤル気!!

｢あれ？あーゆー服装で良かったのかぁ。
なーんだ。
あははは～。｣

…局長。
あんた、私に｢ジャージ着てこなかったら切腹｣っつったよなぁ。

だったらそこらへんの御父兄様みーーんなたたっ切っちまいな！！

かくしてドッヂボール大会は始まった。

チームは地区別に分けられ、私達はかぶき町チームに入る。

軽装の御父兄の中で、私達【夫婦】だけはヤル気満々ジャージ。ものすごく目立つ。

しかしヤル気なのはジャージだけでなく、局長自身もヤル気モードのようだ。

｢おーい。タツオ、おミツ、コウタ、おタカ、おキヨ！

見てろよ。

【お父さん】、頑張るからなー!!｣

この前とは打って変わって満面の笑みで、子供達は手を振って元気に応援している。

仕方ない。
あんな笑顔見たら、【お母さん】も頑張らないわけにはいかないよね。
よし、やるぞ!!

『男は大人になっても子供みたいなもんだ』

とはよく言ったもんで、どこのお父さんもかなり真剣にボールを投げ、ぶつけ合っている。

しかし毎日の鍛練の賜物と言うべきマッチョの巨体・うちの【お父さん】の球は、半端な速度ではない。

速い上に球威が重いとあって、運良くボールを捕らえたお父さんでもそのまま吹っ飛ばされている。

私も負けじとボールを放る。

気が付いたら私もお父さん達並みに真剣になっており、大人げなくも本気でボールを全力投球していた。

私達【夫婦】の球を前に、敵の内野はバッタバッタとなぎ倒されていく。

コート内には味方チームの３人と、相手チームの１人だけが残っている。

このお父さんを打ち落とせばかぶき町チームの勝利だ。

味方からのパスがこっちに回って来た。

私達【夫婦】は同時にボールを受け取った。

｢いくぞ、【お母さん】！！｣

｢了解、【お父さん】！！｣

｢｢うぉりゃァァァ～～！！！！｣｣

私達【夫婦】は渾身の力を込めて、二人で一つの球を投げた。

相手チームのコートに残っていたお父さんは顔面に球を受けて気を失い、救急車で運ばれた。

当然ながら、我がかぶき町チームは圧倒的な強さを誇り、優勝した。

私達【夫婦】はＰＴＡでもないのに今日の大会のＭＶＰを獲得してしまった…。

・―・―・―・―・―・

｢今日、楽しかったなぁ～！｣

｢最後に二人で『ファイト、一発～！！』って言いながら投げたのがかっこよかったよね。｣

｢え？違うよ。
あれは『かめはめ波～！！』って言ってたんだよ。｣

興奮冷めやらぬ様子で話す子供達。

小さい３人は【お父さん】に肩車とおんぶと抱っこをしてもらい、大きい２人は私と手を繋いで歩いている。

｢あぁ、夕焼けが綺麗だね。

明日も晴れるよ。｣

・―・―・―・―・―・

子供達をお寺まで送り届け、局長と山門をくぐる。

もう日も落ち、すっかりあたりは暗くなっていた。

｢華蓮さん、このまま飲みに行こうか。

橋の下でやってる、うまいおでん屋さんがあるんだよ。｣

汗臭いジャージ姿のままで街を歩き、おでん屋にたどり着く。

｢好きなものいっぱい頼んでいいよ。
今日は俺のワガママに付き合わせちゃったからね。｣

こういう場合、昔の私なら遠慮して少ししか頼まなかったはずだ。

しかし今は違う。

｢とりあえず生大。それと大根とハンペンと牛スジとゴボウ巻きと卵とこんにゃくとちくわぶ。それぞれ３つずつ。｣

｢え～…女性なのにそんなに食べるのぉ？

細い体つきなのになぁ。｣

どうだ、局長。
引いただろう。

私は極度の胃下垂なのだ。

だからいっぱい食べられるし、食べても消化が早すぎて栄養摂取をあまり出来ない為、食べても食べても太らない体質なのだ。

自分の注文した焼酎を手に、局長が話し始める。

｢華蓮さんは【お母さん】になりたいって思った事ないの？｣

あるよ。

つーか、今まさにその最中だよ。

今日一日子供達と過ごしたら、あまりのかわいさに子供欲しくなったよ。

｢華蓮さんは真選組に来て頑張ってるけど、一般の女性みたいに『結婚したーい』…とかは思わないの？｣

｢…何が言いたいんですか。｣

ちょっとガッカリした。

局長がまさかこんな『いい年して、そろそろ結婚考えろよ』的な安い一般論を唱えるくだらない人だとは思わなかった。

｢いや…ね。

華蓮さんは何でも一生懸命になる人だからさ。

例えば仕事にしてもそう。

今日のドッヂボールにしてもそう。

だからもしかしたら今、仕事に全力投球するあまり、自分のプライベートを犠牲にしてるんじゃないかな…ってね。

心配になったんだよ。｣

言葉の真意が掴めず黙っていると、局長はさらに続けた。

｢実は…見ちゃったんだよね。

この間、深夜に万事屋から華蓮さんが出て来るところ。｣

…見られたのか。

｢…付き合ってんの？坂田君と。｣

｢…いえ。

今はそういう関係ではありません。

以前はそうでしたが…。｣

局長は焼酎を二口、三口と喉を鳴らして飲んだ。

｢そうか。

じゃあ今は付き合うとかどうとかっていう次元ではなく、それを越えた関係…

つまり【本当の大人の関係】って事かな。｣

自分ではそのつもりだ。

｢真選組を大事に思って、仕事を頑張ってくれてるのは良い事だよ。いつもありがたいと思ってる。

でもね、仕事と同じくらいプライベートも大事にしていいんだよ。

もっと素直に色んなものを受け入れなよ。

坂田君、悪い奴じゃないと思うし。｣

大根を箸で割き、中から滲み出るだし汁を眺めながら答える。

｢でも、いくら私が愛していても、今の状況では彼は私を幸せに出来るとは思えません。

…お先に失礼します。｣

自分の思いを吐露し、いたたまれない気持ちになり、悪いと分かっていながらおでん屋を飛び出した。

この世には自分の思い通りにいかない事がごまんとあるのだから、いちいち素直になっていたらキリがない。

春とはいえまだまだ夜は寒い。

夜風に吹かれ、涙を拭いながら走って寮へ帰った。

｢…坂田君、いるんでしょ、そこに。

いつからカウンターの下に隠れてたの。｣

｢あれ？バレてたの？あれ？

え～っと…『万事屋から出て来るのを見ちゃったんだよね～』のあたりから…かな。｣

｢じゃあ華蓮さんの気持ちは分かったね。｣

｢……あぁ。｣

｢仕事が軌道に乗って、女子隊が落ち着いて…華蓮さんが【嫁き遅れ】とレッテル貼られる前にもらってあげなよ。

それが男の甲斐性ってもんだぞ。｣

｢……分かってるよ……。｣

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