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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[23]２月１日(新八)

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｢ね、新八君。

今日だけ、今日だけだからさ。

お願い！

折子とデートしてやってよ!!｣

朝、万事屋に来た瞬間から華蓮さんに言い寄られて、かれこれ１０分間断り続けている。

折子さんとは、真選組女子隊士の一人らしい。

｢僕にはお通ちゃんという心の恋人がいるんです!!

[お通親衛隊]隊長たるもの、他の女子とデートだなんて言語道断、とんでもない事ですよ。｣

銀さんと神楽ちゃんは部屋の隅っこで、｢よくあの女に逆らえるな｣という目で僕らのやりとりを見守っている。

｢お願い！今日一日だけでいいの。

そしたら新八君への想い、確実に諦めさせるから。

ね、おこづかいもあげるからさ！｣

華蓮さんは僕の手にお金を握らせた。

日本で二番目に高額なお札だった。

｢ね、ね。

私の顔を立てると思ってさ。

ね、一生のお願い!!

その娘、すご～くカワイイ娘なのよ。｣

ついに華蓮さんは僕に向かって合掌し、深々と頭を下げた。

折子さんって、カワイイのか…

いやいや、でも銀さんが前に言ってた。

｢女が言う[カワイイ]は大抵ブスだから信じるな｣って。

だからこれもきっと信じちゃいけないんだ。

よし、そんな言葉に惑わされないぞ！

｢あ、そういえば折子、お通ちゃんに似てるってよく言われるみたいよ。｣

｢行きます!!……あ。｣

銀さんの教えを生かす事なく、返事が口を突いて出てしまった。

華蓮さんが口元にニヤリと笑みを浮かべた。

・―・―・―・―・―・

結局僕の弱い部分が災いし、折子さんと一日お付き合いする事になってしまった。

お通ちゃんごめんなさい。

今日一日だけ他の女の子と時間を共にします。

許して下さい。

でも信じて下さい。

いつも心はあなただけのものですから…

｢お待たせしましタンコブ～！｣

｢いや、全然待ってなインカ帝国～!!…って、アレ？｣

待ち合わせ場所の大江戸遊園地前に現れたのは、[お通語]を使う美少女だった。

｢あの…もしかしてあなたが真選組の折子さんですか？｣

黒髪をサイドにポニーテールしている色白の美少女は、コクンと頷き微笑んだ。

やった～～～!!!

ありがとう、華蓮さん!!
ありがとう、ＯＫと返事した僕!!

確かに似てます!!

お通ちゃんにソックリです!!

さっきお通ちゃんに『いつも心はあなただけのものですから…』と誓ったばかりだというのに、もう僕は折子さんにハートを鷲掴みにされていた。

・―・―・―・―・―・

僕の身長は１６６センチ。

一般的な男性の平均からすれば少し低いけど、まだまだこれから伸びると、自分では思っている。

それにしても

折子ちゃん、でけーな…。
華蓮さんとたぶん同じ位はあるんじゃないかな。

まぁハイヒール履いて来なかっただけ幸いとしよう。

さて、ここは遊園地なんだから、まずは何かに乗らなくちゃね。

折子ちゃん、どんなのが好きかな。

｢折子ちゃん、何に乗…｣

｢私、ジェットコースターに乗りたインキンタムシ！｣

そう言ったかと思うと彼女は僕の手を取り、ジェットコースターの列に走り出した。

結構積極的で、自分から引っ張ってくタイプなんだな…。

｢私、ジェットコースター大好き！

ワクワクするネパール山脈♪｣

｢う…うん。｣

正直、こういう速くて高くて風を直接感じてしまう乗り物は大の苦手だ。

でもたぶん今日みたいなデートの場合、断ってはいけないんだろうなと思い、仕方無く乗車した。

安全ベルトを締めた事を係員さんが確認し、ついにコースターが動き出した。

怖くない。

怖くないぞ、新八。

折子ちゃんに情けない姿を見せまいと、自分を奮い立たせた。

コースターはゆっくりと空を目指して上昇している。

怖くない、怖くないぞォ。

しかし僕が確認する限り、その先にはレールが無かった。

あれ？じゃあこの後コースターは…

自分の中で答えが出る前に、｢ガタン｣という音の後、コースターが勢いよく後ろ向きに走り始めた。

｢ギャアァァァ～!!!!!｣

聞いてない、聞いてないぞこんな展開ィィィ!!

気が付けば、折子ちゃんにいいトコ見せようなんてとてもじゃないけど出来ない位の恐怖感に見舞われ、我を忘れて絶叫していた。

｢ヒャアァァァ～降ろしてェェェ～!!｣

情けない声で泣きわめく僕の隣で、折子ちゃんは

｢イヤッッホゥ～～イ!!｣

と大はしゃぎしている。

あれ？

興奮した時の折子ちゃんって、結構オッサン声なんだね…。

｢次はお化け屋敷に行きたイカゲソ。｣

折子ちゃんはまたも自らリクエストしてきた。

まぁ延々迷われるよりは、男としてはありがたいか。

しかしお化け屋敷っていうと、やっぱアレでしょ？

女の子が｢キャー！｣ってなって、腕につかまって…みたいなアレでしょ？

これは男・志村新八を見せとかなきゃだな。ヨシ！

お化け屋敷の中はしんみりと静かで、時折笹の揺れる音と床の軋みが聞こえるだけだ。

しばらく暗闇を二人で歩いていると、その先に汚い井戸が見えた。

♪来る～きっと来る～

例の歌が頭の中を駆け巡る。

すると、案の定来た!!

｢バアァァァ～～！｣

ヨシ、来たサ○コ!!

それで、定説からいくとここで折子ちゃんが僕の腕に｢キャー｣ってつかま…

あれ？

気が付けば、サ○コが僕の目の前で倒れていた。

｢もう大丈夫ですよ、新八さん。

サ○コは私が退治したかラサール石井！｣

…殴った。

この女、オバケ殴った…。

カワイイ外見ながら、彼女の中身はなかなかのボーイッシュらしい。

やっぱ真選組で働く女の子はこうじゃないといられないのかもな。

お昼はまた彼女の提案で、ベンチで焼きソバを食べる事になった。

お天気が良いとはいえ、まだ２月。

時折吹きすさぶ風が冷たく感じる。

｢折子ちゃん、寒くなインダストリアル？｣

すると彼女はまたビックリ発言をかましてくれた。

｢大丈夫！

そう思って今日はモモヒキはいてき舘ヒロシ♪｣

モモヒキって…

それ聞いてドン引きしてる僕の横で、歯に挟まった青ノリを爪楊枝でシーハーしてる折子ちゃん。

オッサンだ。

この女、オッサンなんだ！

成りはアイドルっぽいけど、中身完全にオッサンだァァァ!!

どうしよう。

こんな女、どうやって始末したらいいんだ。

銀さんから[オッサン女の始末のしかた]はまだ教わってない。

どうしよう。

あぁ、帰りたくなって来た…。

｢ハイ、終了～。

ダメじゃないか、こんな点数じゃあ。｣

オッサン女のラビリンスに迷い込んで混乱している僕の前に、見知った顔が現れた。

真選組の山崎さんだ！

でも点数って…？

山崎さんは手に持っていたチェックシートを折子ちゃんに突き付けた。

｢ジェットコースターで男声で叫んだり、お化け屋敷でオバケ殴ったり、焼きソバをシーハーしたり…

こんな事じゃいつまでたっても及第点はあげられないな。

今回も不合格！｣

何だ何だ!?

突然やって来て｢及第点｣とか｢不合格｣とかって…

状況が理解出来ず、割り箸片手に固まっている僕に、山崎さんがいつもの丁寧な物腰で説明してくれた。

｢ごめんなさい、新八君。

実は折子ちゃんは吉村折太郎…つまり男なんだ。

僕と同じ監察なんだけど、この度一人立ちさせようと思って、変装して女の子として振る舞うスパイ工作テストをしてたんだ。

だけどこれじゃあまだまだだね。

新八君には感謝してるよ。
ありがとう！

謝礼は華蓮さんに渡しといたから。

また協力してね！｣

呆気に取られる僕を残し、二人は帰って行った。

僕の冷えた焼きソバは全て袴に落ち、ソースでシミだらけになった。

そうか。

朝もらったあのおこづかい、アレ、謝礼だったのか。

…って、僕の純情は五千円か、五千円ぽっちで売買されたのかァァァ～～～!!!

騙された。

以前、猫耳のエロメスって女にも騙されたけど、今回は華蓮さんと男に騙されたよチクショー。

あ、そういえば前に銀さんからこんな事も教わったんだった。

『女の笑顔と｢一生のお願い｣は信用しちゃいけねェ。』

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